
「祖父の名義のままになっている土地があるのですが、そのままで大丈夫でしょうか」。お盆の帰省で実家の話題が出たあとの九月は、こうしたご相談が増える時期です。お答えとしては、そのままにはしておけません。令和6年4月1日から、不動産を相続した方には相続登記を申請する義務が課されています。しかも、施行日より前に起きた相続も対象です。いつまでに何をすればよいのか、間に合わないときにどうするのかを、名古屋市東区白壁の事務所でのご相談に沿って整理します。
相続で不動産を取得した相続人に、相続登記の申請が法律上の義務として課されました。令和6年4月1日に施行された制度で、正当な理由なく申請を怠ったときは10万円以下の過料の対象になります(法務省「相続登記の申請義務化について」)。
それまで申請は任意でした。登記をしなくても直ちに困ることが少なかったため、名義が何代も前の方のまま残る不動産が積み上がり、道路の拡幅や災害復旧の用地買収の場面で所有者をたどれない土地が壁になってきました。申請そのものを義務としたのは、その状態を解消するためです。
対象は、相続や遺贈によって不動産の所有権を取得した相続人です。土地だけでなく建物も含まれますし、田畑や山林、私道の持分のように、ふだん意識しにくい不動産も入ります。愛知や岐阜の郊外にお住まいだったご家庭では、自宅の隣に細長い畑が残っていたという例が珍しくありません。
起算点は「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日」です。亡くなった日ではなく、相続が始まったことと不動産を取得したことの両方を知った日から3年以内に申請します(法務省)。
この書き方には意味があります。長く行き来のなかった親族が亡くなり、何年もあとに相続人であると知らされる場合があるからです。死亡日から数えると、知る前に期限が過ぎていたという不合理が起きてしまいます。
「では、いつを知った日と考えればよいのですか」とよく聞かれます。多くのご家庭では、葬儀のあとに固定資産税の納税通知書や権利証を見て、亡くなった方の名義の不動産があると分かった日が目安になります。三年は長そうに見えますが、戸籍を集めて相続人を確定し、話し合いをまとめて署名押印をいただくところまで進めるとなると、余裕のある長さではありません。
施行日より前に発生した相続も義務の対象です。過去の相続についての期限は令和9年3月31日まで、不動産を相続で取得したことを知った日が令和6年4月以降の場合は、その日から3年以内とされています(法務省)。
見落とされやすいのがこの点です。祖父母の代から名義が変わっていない土地、父が亡くなったときに手をつけないままだった実家。そうした不動産にも令和9年3月31日という共通の期限が置かれており、この記事を書いている令和8年9月の時点で残りは七か月ほどです。
以前、名義が三代前のまま残っていた土地の相続登記をお引き受けしたことがあります。戸籍をたどるうちに相続人は二十人を超え、面識のない方へお手紙を出し、書類を送り返していただくやり取りだけで半年以上かかりました。ご依頼くださった八十代の方が「父のときに済ませておけばよかった」と何度もおっしゃっていました。相続人は世代が下るほど増えますので、着手が遅れるほど手間と費用は積み上がります。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
期限を過ぎた瞬間に科されるわけではありません。登記官が義務違反を把握するとまず催告書が送られ、そこに記載された期限内に登記がされない場合に、登記官から裁判所へ通知される流れです(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。
過料を科すかどうかは、通知を受けた裁判所が要件を判断して決めます。過料は刑罰ではなく、行政上の秩序を保つための金銭的な負担とされていますので、前科がつくものではありません。とはいえ催告書を放置すれば裁判所の判断を待つことになりますから、書面が届いたら記載の期限内に手続きを進めてください。窓口でお伝えしているのは、過料そのものより、登記をしないまま時間が過ぎて相続人が増え、話し合いが難しくなるほうが実害は大きいということです。
法務省は、正当な理由があると考えられる例として五つの場合を挙げています。相続人が極めて多数にのぼる場合や、遺産の範囲などが争われている場合などで、これに当たるときは期限を過ぎても直ちに過料の対象とはなりません(法務省)。
いずれも、手続きを進めたくても進められない事情に絞られています。忙しくて手が回らなかった、費用を出すのが惜しかったという理由は当てはまりにくいとお考えください。当たるかどうかの判断も、ご自身で決めつけずに一度ご相談いただければと思います。
話し合いがまとまらないなど、期限内に相続登記ができないときは、相続人申告登記という簡易な手続きで申請義務を果たすことができます。特定の相続人が単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません(法務省「相続人申告登記について」)。
登記記録上の所有者について相続が開始したことと、自分がその相続人であることを法務局に申し出る手続きです。添付するのは、申出人が登記名義人の相続人であることが分かる戸籍の証明書が基本になります。相続人全員の戸籍をそろえる必要はありませんので、話し合いが長引いているご家庭には現実的な選択肢です。
ただし性質をよく理解しておく必要があります。相続人申告登記は権利関係を公示するものではなく、申し出た方の氏名や住所などが登記記録に付記されるにとどまります。持分が登記されるわけではありませんので、これをもって不動産を売却したり担保に入れたりすることはできません。期限内に義務を果たしておくための暫定的な仕組みだとお考えください。
相続人申告登記を済ませていても、それだけで手続きが終わるわけではありません。遺産分割によって不動産を取得した場合は、遺産分割の日から3年以内に、その結果に基づく登記を申請する必要があります(法務省)。
相続人申告登記によって遺産分割に基づく登記の義務まで履行することはできない、と法務省は明記しています。話がまとまったところで安心し、登記を後回しにしたまま数年が過ぎるというのは起こりやすい流れです。当事務所では、遺産分割協議書の作成をお手伝いした案件について、成立の日をお伝えしたうえで登記までを一続きの流れとしてお引き受けしています。
登記の周辺でも新しい仕組みが動き始めました。令和8年2月2日から所有不動産記録証明制度が始まり、亡くなった方の名義の不動産を一覧で確認できるようになっています。さらに令和8年4月1日からは、住所や氏名の変更登記も義務化されました(法務省)。
所有不動産記録証明制度は、特定の方が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記官が一覧的にリスト化して証明書として交付する仕組みです。請求できるのは登記名義人本人と、その相続人その他の一般承継人で、代理人による請求もできます(法務省「所有不動産記録証明制度について」)。名古屋の自宅のほかに郷里の岐阜に山林があった、というご相談はよくあります。市町村ごとに名寄帳を取り寄せて探すほかなかった以前と比べると、一覧で把握できる意味は小さくありません。
住所等変更登記のほうは、住所や氏名が変わったときに変更の日から2年以内の登記が義務となり、正当な理由なく怠った場合は5万円以下の過料の対象とされています。義務化前に生じた変更は令和10年3月末までが期限です(法務省「住所等変更登記の義務化について」)。相続の相談で登記簿を確認すると、引っ越し前の住所のままだったと分かる場面が続いています。
すぐに科される仕組みではありません。登記官から登記をするよう催告書が送られ、その期限内に登記がされない場合に裁判所へ通知され、裁判所が判断します(法務省)。期限を過ぎていることに気づかれた時点で、できるだけ早く手続きを進めていただければと思います。
話し合いが続いているあいだは、相続人申告登記で申請義務を果たしておく方法があります。単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。なお、相続人のあいだに争いがある場合の交渉や調停の代理は弁護士の業務です。認定司法書士が代理できるのは訴額140万円以下の簡易裁判所の手続きに限られ、家庭裁判所の遺産分割調停の代理はできません。
相続人が配偶者と子だけで、対象の不動産も一つという場合は、ご自身で申請される方もいらっしゃいます。相続人が兄弟姉妹に及ぶ、不動産が複数の市町村にある、何代も登記がされていないといった事情があると、戸籍の収集の段階で手が止まりやすくなります。費用は登録免許税という税金と司法書士の報酬がかかり、不動産の評価額や相続人の人数によって変わります。内訳をご説明したうえでお見積りいたします。
令和8年2月2日から始まった所有不動産記録証明制度を使うと、亡くなった方が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧で確認できます。相続人の立場で請求でき、代理人による請求もできます(法務省)。
相続登記の義務化で押さえておきたいのは、期限が二重になっていることです。これから起きる相続については知った日から3年以内、すでに起きている相続については令和9年3月31日まで。祖父母の代の名義が残っている土地に心当たりがあるなら、後者の期限が先に来ます。
手帳の来年3月のページに「令和9年3月31日 相続登記の期限」と書き込み、年内に戸籍を取り寄せるところまで進めていただくと、時間に追われずに済みます。秋のお彼岸でご家族が集まる機会があれば、実家の名義がどうなっているかを話題にしてみてください。集まっている場で確認できることは、あとから電話で聞くよりずっと多いものです。
名古屋市東区白壁の当事務所では、相続の初回相談を60分無料でお受けしています。権利証や登記簿がお手元になくても、状況をうかがえば進め方の見立てはお伝えできます。まずはお気軽にご相談ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。制度の内容は令和8年9月時点のものです。最新の取扱いは法務局でご確認ください。