
「父の遺産に相続税はかかるのでしょうか。かかるなら、いつまでに何をすればよいのでしょうか。」秋のお彼岸を過ぎ、年末の帰省が近づくこの時期、相続登記のご相談の席でこうお尋ねいただくことが増えます。
相続税がかかるかどうかの最初の目安は、遺産の合計額と「基礎控除額」を比べることです。基礎控除額は法定相続人の数で決まり、遺産がその範囲内なら申告も納税も要りません。超えるときは、亡くなった日の翌日から10か月以内に申告と納税をします。計算の仕方から相続登記との関係まで、順に見ていきます。
相続税は、亡くなった方から受け継いだ財産の合計額が「基礎控除額」を超える場合にかかります。基礎控除額は、3,000万円に、600万円と法定相続人の数を掛けた額を足して求めます。
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」は、「その取得した財産の価額の合計額が遺産に係る基礎控除額の範囲内であれば申告も納税も必要ありません。」と説明しています。国税庁「No.4152 相続税の計算」では、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた残りを「課税遺産総額」と呼び、税額の計算はそこから始まります(いずれも令和8年4月1日現在法令等)。
法定相続人の数ごとに見ると、1人なら3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円、4人なら5,400万円、5人なら6,000万円が基礎控除額です。
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 |
|---|---|
| 1人 | 3,600万円 |
| 2人 | 4,200万円 |
| 3人 | 4,800万円 |
| 4人 | 5,400万円 |
| 5人 | 6,000万円 |
表1 国税庁「No.4152 相続税の計算」の算式(3,000万円+600万円×法定相続人の数)をもとに作成しました(2026年11月5日確認・令和8年4月1日現在法令等)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
国税庁には、質問に答えながら申告が必要かどうかを確かめられる「相続税の申告要否判定コーナー」もあります。ただし分かるのは目安で、財産の評価や特例の使い方によって結論が変わることがあります。
基礎控除額の計算に使う「法定相続人の数」は、民法で相続人になる方の人数が基本です。相続放棄をした方がいても数から外さず、養子は数に入れられる人数に上限があります。
国税庁「No.4152 相続税の計算」は、「法定相続人の数は、相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいます。」と説明しています。お子さんのお一人が相続放棄をしても、基礎控除額は減りません。
養子については、同じページに「被相続人に実子がいる場合は、養子のうち1人までを法定相続人に含めます。」「被相続人に実子がいない場合は、養子のうち2人までを法定相続人に含めます。」とあります。
誰が相続人になるかは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をたどって確かめます。相続登記のために司法書士が行う戸籍の収集と同じ作業で、ここで相続人の数が確定すると、基礎控除額も決まります。
名古屋市東区のご相談で、お父さまの相続登記をご依頼いただいたとき、ご長女は「うちは相続税とは縁がないと思います」とお話しでした。戸籍をそろえると相続人はお二人で、ご実家の評価証明、預金の残高、生命保険の受け取りを並べてみると、合計が基礎控除額の4,200万円に近いのではないかと思われました。その場で税理士へのご相談をお勧めし、10か月の期限まで半年以上ある時期に動き出せたことで、落ち着いて準備を進めていただけました。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
相続税を考えるときの遺産には、土地や建物、預貯金のほか、亡くなったことで受け取る生命保険金や死亡退職金も含めます。いっぽう、お墓や仏壇などには相続税がかからず、借入金などの債務は差し引きます。
国税庁「No.4108 相続税がかからない財産」によると、生命保険金と死亡退職金は、それぞれ「500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの部分」には相続税がかかりません。法定相続人が2人なら、それぞれ1,000万円までが非課税の部分です。
同じページは、「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」も挙げています。ただし、骨とう的な価値があるものや、商品として持っているものは対象になりません。
もうひとつ気をつけたいのが、亡くなる前の贈与です。国税庁「No.4102 相続税がかかる場合」によると、財産の合計額から債務などを差し引いたうえで、一定の期間内に亡くなった方から受けた暦年課税の贈与を加算します。
加算する期間は見直しの途中です。国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」によると、令和8年(2026年)12月31日までに相続が始まった場合は相続開始前3年以内、令和9年1月1日から令和12年12月31日までは令和6年1月1日から亡くなった日までの間、令和13年1月1日以後は相続開始前7年以内です。来年からは、さかのぼる期間が少しずつ長くなります。
相続税の申告と納税は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行います。提出先は亡くなった方の住所地を所轄する税務署で、相続人の住所地の税務署ではありません。
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」は、「相続税の申告は、被相続人が死亡したことを知った日(通常の場合は、被相続人の死亡の日)の翌日から10か月以内に行うことになっています。」とし、「例えば、1月6日に死亡した場合にはその年の11月6日が申告期限になります。」と例を挙げています。
提出先についても、同じページに「相続人の住所地を所轄する税務署ではありません。」と明記されています。納税の期限も同じで、「相続税の納税は、上記の申告期限までに行うことになっています。」とされています。名古屋市にお住まいだったお父さまの相続なら、東京に住むお子さんが申告する場合も、提出先はお父さまの住所地を所轄する名古屋市内の税務署です。
配偶者の税額の軽減は、配偶者が実際に取得した遺産が、1億6千万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までなら、配偶者に相続税がかからないという制度です(国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減」)。軽減を受けるには、その明細を記載した申告書に戸籍謄本や遺産分割協議書の写しなどを添えて提出しますので、基礎控除額を超えそうなときは早めに税理士にご確認ください。
相続税の申告書が出された方の割合は、全国では亡くなった方のおよそ10人に1人ですが、愛知県では6人に1人ほどです。名古屋近郊にお住まいの方は、ご自分に関係があるかを一度確かめておく値打ちがあります。
国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月発表)によると、令和6年分の全国の被相続人数(死亡者数)は1,605,378人、相続税の申告書の提出に係る被相続人数は166,730人で、課税割合は10.4%でした。前年の9.9%から0.5ポイント上がっています。
名古屋国税局の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」では、岐阜県・静岡県・愛知県・三重県を合わせた課税割合が13.0%で、県別に見ると愛知県は16.2%、岐阜県は9.7%でした。
相続税は亡くなった時点の財産とその価額で決まり、相続登記をいつしたかによって変わりません。いっぽう相続登記にも、所有権を取得したことを知った日から3年以内という申請の期限があります。
国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」のQ&Aには、相続登記をしないまま2年が過ぎ、その間に不動産が値上がりした例が載っています。答えは「相続税の課税時期は、相続により財産を取得した時(父が死亡した時)であり、登記をした時によって変わることはありません。」というもので、基礎控除額を「超えていれば相続登記の有無にかかわらず申告と納税をする必要があります。」と続きます。
同じQ&Aは、「相続や遺贈により取得した財産は、その財産を取得した時の価額で評価します。」としています。いっぽう法務局「登録免許税の計算」は、相続登記の登録免許税の課税標準について「市町村役場で管理している固定資産課税台帳の価格がある場合は、その価格です。」とし、税率は1000分の4です。同じ不動産でも、登記と相続税では金額の物差しが違います。
相続登記の期限は、法務省「相続登記の申請義務化について」によると、「その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました」というものです(令和6年4月1日施行)。相続税の10か月とは別の期限ですが、戸籍や遺産分割協議書は両方の手続きで使いますので、まとめて準備すると手間が省けます。
相続税の申告書の作成や税額の計算、特例を使えるかの判断は、税理士の業務です。司法書士は、戸籍の収集、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請といった、登記と書類の面からお手伝いします。
司法書士法人白壁事務所(しらかべ)では、相続登記のご相談の中で遺産の内容を伺い、基礎控除額を超えそうなときは、その時点で税理士へのご相談をお勧めしています。税額がいくらになるか、特例が使えるかといった個別の判断はいたしません。
戸籍をたどって相続人を確定する作業、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成は、相続税の申告の準備とも重なります。10か月のうち、相続人の確定と遺産分割に時間がかかることは少なくありませんので、早い時期にご相談いただければ、税理士の準備と並行して名古屋の相続登記を進められます。
相続人のあいだで遺産の分け方について主張が分かれている場合は、弁護士へのご相談が適していることもあります。
相続税の目安について、よくいただくご質問を3つ取り上げます。いずれも一般的な取扱いで、個別の事情によって結論が変わることがあります。
国税庁の説明では、取得した財産の合計額が基礎控除額の範囲内であれば、申告も納税も必要ありません。遺産が基礎控除額を超えていて、配偶者の税額の軽減を受ける場合は、申告書の提出が要ります。
減りません。国税庁の説明では、基礎控除額の計算に使う法定相続人の数は、相続放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の人数で数えます。
要る場合があります。相続税の課税時期は亡くなった時点で、登記をした時によって変わりません。遺産が基礎控除額を超えていれば、相続登記をしたかどうかにかかわらず、10か月以内に申告と納税をします。
相続税がかかるかどうかは、法定相続人の数で決まる基礎控除額と、遺産の合計額を比べることから始まります。ご状況ごとに考えられる進め方を表にまとめました。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 相続人の数が分からない | 戸籍をたどって法定相続人を確定します |
| 遺産が基礎控除額の範囲内 | 相続税の申告は要りません。相続登記を進めます |
| 遺産が基礎控除額に近い | 申告が必要かを税理士にご確認ください |
| 遺産が基礎控除額を超える | 10か月以内の申告に向けて税理士と準備します |
| 生命保険金や死亡退職金がある | 非課税の部分を差し引いて考えます |
| 亡くなる前に贈与を受けていた | 加算する期間を税理士にご確認ください |
| 遺産の分け方で主張が分かれている | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
年末年始にご家族が集まる機会に、ご実家の名義と遺産のおおよその内容を確かめておくだけでも、10か月の期限の中で慌てずに済みます。名古屋の相続登記と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:国税庁「No.4102 相続税がかかる場合」「No.4152 相続税の計算」「No.4108 相続税がかからない財産」「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」「No.4158 配偶者の税額の軽減」「No.4205 相続税の申告と納税」「相続税の申告要否判定コーナー」「令和6年分 相続税の申告事績の概要」、名古屋国税局「令和6年分 相続税の申告事績の概要」、法務省「相続登記の申請義務化について」、法務局「登録免許税の計算」
この記事は 2026年11月5日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・税務署等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年11月5日
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