
ご自分の手で書いた遺言書を、法務局が預かってくれる制度があります。手数料は1件につき3,900円で、預けた遺言書は亡くなったあとに家庭裁判所の検認を受ける必要がなくなり、ご家族には法務局からお知らせが届きます。
自宅にしまったままでは見つけてもらえないかもしれませんし、公証役場で作るには費用も手間もかかります。その間を埋める選択肢です。秋のお彼岸が過ぎたころから、名古屋市東区の当事務所にも遺言のご相談が増えます。どこに申し込み、何を持って行き、いくらかかるのか、順に見ていきます。
自筆証書遺言書保管制度は、ご自身の手で書いた遺言書の原本を法務局が預かり、画像データとしても保存する制度です。令和2年(2020年)7月に始まり、預けた遺言書は家庭裁判所の検認が要らなくなります。
遺言書を預かる法務局を、制度の上では遺言書保管所と呼びます。法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」によれば、保管の申請のときに職員が「民法の定める自筆証書遺言の方式について外形的な確認(全文、日付及び氏名の自書、押印の有無等)を行います。」とされています。自宅にしまっておく場合と違い、窓口で形を見てもらえます。
法務省「遺言書保管制度とは?」には「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。」とあります。方式を見てもらえることと中身を見てもらえることは別で、誰に何を渡すかは、ご自身で決めるか、専門家にお尋ねいただくことになります。
保管される期間は長く、法務省の案内には「原本:遺言者死亡後50年間、画像データ:同150年間」とあります。「遺言書の紛失・亡失のおそれがありません。」「相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます。」の2点が、この制度のいちばんの値打ちです。
法務省民事局「民法(遺言関係)部会資料 1 遺言制度の見直しにおける主な検討事項」には「令和5年の保管申請件数は年間約2万件である」とあり、公正証書遺言の作成件数は「年間約11万件前後」とされています。法務局に預ける方法も、年に2万件ほど選ばれている計算になります。
申し込み先は、ご自身の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所です。愛知県内には、名古屋法務局の本局と10か所の支局を合わせた11か所があります。
法務省「管轄/遺言書保管所一覧」には「遺言書の保管の申請は、次の3つのいずれかを担当する遺言書保管所であれば、どこででも可能です。」とあり、「①遺言者の住所地」「②遺言者の本籍地」「③遺言者の所有する不動産の所在地」が挙げられています。
愛知県内で遺言書を預かるのは、名古屋法務局の本局と、豊橋・岡崎・一宮・半田・春日井・津島・刈谷・豊田・西尾・新城の各支局です。名古屋市内の方は中区三の丸の本局で、地下鉄名城線「名古屋城」駅から数分です。春日井市のあたりなら鳥居松町の春日井支局、岐阜県の方は岐阜地方法務局が窓口になります。
手続きは予約制です。法務省の案内には「本制度の全ての手続で、事前の予約が必要です。」とあり、法務省「予約」のページには「予約を行うことができる期間は、30日先までです。」「当日の予約はできません。」とあります。予約は専用のホームページからのほか、電話や窓口でも受け付けています。
遺言書を書き、保管申請書と住民票の写しをそろえ、管轄の遺言書保管所に予約を取って、遺言者本人が出頭します。手続きが終わると、保管番号の入った保管証を受け取ります。
| 順番 | すること |
|---|---|
| 1 | 民法の方式に従って遺言書を書く |
| 2 | 法務省の様式に合わせて余白を確かめる |
| 3 | 保管申請書を記入し、住民票の写しを用意する |
| 4 | 管轄の遺言書保管所に予約を取る |
| 5 | 遺言者本人が出頭し、身分証明書で本人確認を受ける |
| 6 | 保管証を受け取る |
表1 法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」をもとに作成(2026年10月12日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
いちばん時間がかかるのは1番目と2番目です。書き上げるところで止まってしまう方が多く、様式の確かめまで含めると、数か月かかることもめずらしくありません。
添付する書類は「本籍(外国人は国籍)と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等」です。保管申請書はあらかじめ記入して用意し、当日は本人確認のため「顔写真付きの官公署から発行された身分証明書」を持参します(法務省の案内)。
出頭はご本人に限られます。案内には「保管の申請等の手続は遺言者本人に,法務局(遺言書保管所)にお越しいただいて行う必要があります。」とあります。ご体調の都合で窓口まで出向けない場合は使えません。そのときは公正証書遺言という方法があり、大分地方法務局の案内には「公証人が出張することが可能」とあります。
手続きが終わると「遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号が記載された保管証をお渡しします。」とされています。「保管証の再発行はできません。」という注記も付いています。
預ける遺言書はA4サイズの用紙に片面だけで書き、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白を空けます。ホチキスで綴じず、封筒にも入れません。
この余白は厳しく見られます。法務省「遺言書の様式等についての注意事項」には「余白が確保されていない場合や、余白に1文字でも何らかの文字等がはみ出してしまっている場合は、書き直していただかなければお預かりできません。」とあります。罫線の引かれた便箋をそのまま使うと引っかかることがあります。
あわせて「複数ページある場合でも、ホチキス等で綴じないでください。」「スキャナで遺言書を読み取るため、全てのページをバラバラのまま提出いただきます(封筒も不要です。)。」とされています。複数ページのときは「1/2、2/2」の形でページ番号を余白の中に書きます。
名古屋市内の方から、法務局に預ける前に見てほしいとご相談をいただいたことがあります。きれいな封筒に入れて封をし、ページをホチキスで留めてお持ちになりました。中身は整っていましたが、封もホチキスも外していただき、さらに左の余白が足りず、もう一度書いていただくことになりました。よかれと思って整えたことが、制度の上では逆に働く場面です。※事例は個人情報保護のため一部を改めています
保管の申請は1件(遺言書1通)につき3,900円です。財産の額にかかわらず同じ額で、保管の申請の撤回と住所等の変更の届出には手数料がかかりません。
法務省「手数料」の一覧では、「遺言書の保管の申請」が「申請1件(遺言書1通)につき、3900円」、「遺言書情報証明書の交付請求」が「1通につき、1400円」、「遺言書保管事実証明書の交付請求」が「1通につき、800円」とされています。閲覧の請求はモニターで1回1,400円です。
納め方にも決まりがあります。同じページに「納付は収入印紙により納付いただきます。」とあり、収入印紙は手続を行う法務局で購入できます。現金で払う形ではなく、印紙を買って申請書に貼ります。
当事務所にご依頼いただく場合の費用は、ホームページの料金ページでご案内しています。
ご家族は、遺言書が預けられているかどうかを遺言書保管事実証明書で確かめ、中身は遺言書情報証明書で確認します。どちらも遺言者が亡くなったあとに限られます。
法務省の案内では、遺言書保管事実証明書で「自分を相続人や受遺者等又は遺言執行者等とする遺言書が保管されているか否かの確認ができます」とされ、遺言書情報証明書では遺言書の内容の証明書が取得できるとされています。どちらも「遺言者が亡くなられている場合に限られます。」との注記が付いています。
遺言者が生きているあいだ、閲覧の請求ができるのは「遺言者本人のみ」です。預けたこと自体を伝えておくかどうかは、ご本人の判断になります。
証明書は近くの窓口で受け取れます。法務省「遺言書保管制度とは?」には「全国どこの法務局においても、データによる遺言書の閲覧や、遺言書情報証明書の交付が受けられます!」とあります。ただし原本の閲覧は、原本を保管している遺言書保管所でしかできません。
通知も届きます。相続人等のどなたか一人が閲覧や証明書の交付を受けると、「その他の相続人全員に対して、遺言書保管所に関係する遺言書が保管されている旨のお知らせが届きます」。指定者通知を申し出ておけば、3名までの方に直接届きます。
不動産の名義を変える手続きや預貯金の手続きには、この遺言書情報証明書を使います。自宅で保管していた遺言書なら家庭裁判所の検認が必要ですので、差はここに出ます。
2026年6月24日に民法等の一部を改正する法律が公布され、押印の任意化と、保管証書遺言という新しい方式の創設が決まりました。施行の日は政令で定められます。
法務省の改正の概要によれば、押印の任意化は「自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言における遺言者及び証人等の押印要件を廃止し、押印を任意とする。」というものです。
もうひとつが保管証書遺言です。「遺言の内容が記録されたデータ等の保管を法務局に申請し、本人が遺言の全文を口述するなどして、法務局が遺言を保管する方式」とされ、「パソコン等を用いた作成が可能」「オンラインによる保管申請が可能」と書かれています。検認手続も不要です。
施行の時期は、押印の任意化等が「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」、保管証書遺言の創設等が「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています。2026年10月12日の時点で、施行期日を定める政令は見当たりません。
法務局に預けるときに多くいただくご質問を3つ挙げます。いずれも法務省の案内で確かめられる範囲でお答えしています。
保管の申請を撤回すると、遺言書を返してもらえます。法務省の案内には「保管の申請の撤回をすることにより、遺言書を返してもらうことができます。」とあり、撤回に手数料はかかりません。書き直して、あらためて預けることもできます。
変更の届出が必要です。案内には「氏名、住所等(受遺者、遺言執行者、指定者通知対象者等を含む。)に変更が生じたときには、その旨を届け出る必要があります。」とあります。この届出にも手数料はかかりません。
中身の相談には応じてもらえません。法務省の案内に「法務局(遺言書保管所)は遺言書の内容に関する相談に応じることができません。」と明記されています。確かめてもらえるのは方式の外形的な部分だけです。
ご事情に合わせて、どの道を選ぶかの目安を挙げます。迷われたときの入り口として見ていただければ十分です。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 費用を抑えて形にしておきたい | 自筆で書き、法務局に預ける方法が向きます |
| 自宅で保管したままにしている | 書き直して預け直す方法もあります |
| 窓口まで出向くのがつらい | 公正証書遺言のほうが向く場合があります |
| 余白や様式を確かめたい | 書き上がったところで専門家にお尋ねください |
| 家族に預け先を知らせたい | 保管証の写しを渡し、指定者通知を申し出ます |
| 遺言書があるか分からない | 遺言書保管事実証明書で確かめます |
| 相続人のあいだで争いになりそう | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
年末年始にご家族が集まる前に下書きまで進めたいというご相談も毎年いただきます。余白の確かめと予約まで含めると、思っているより日数がかかります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:法務省「自筆証書遺言書保管制度のご案内」(令和7年度改訂版)、法務省「遺言書保管制度とは?」、法務省「管轄/遺言書保管所一覧」、法務省「予約」、法務省「手数料」、法務省「遺言書の様式等についての注意事項」、法務省「民法等の一部を改正する法律」、法務省民事局「民法(遺言関係)部会資料 1 遺言制度の見直しにおける主な検討事項」、法務省民事局(遺言者の手続の案内)、大分地方法務局(遺言書の保管方法の案内)
この記事は 2026年10月12日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・公証役場等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年10月12日
名古屋のやさしい相続相談室(司法書士法人白壁事務所(しらかべ))では、遺言書の作成と、法務局に預ける際の様式の確認についてのご相談をお受けしています。まずはお気軽にご相談ください。