
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作ってもらう遺言です。財産の価額に応じた手数料がかかりますが、方式の不備で無効になる心配がほとんどなく、亡くなったあとに家庭裁判所の検認を受ける必要もありません。
秋のお彼岸が過ぎたころから、遺言のご相談が増えてきます。名古屋市東区白壁の当事務所でも、年末年始にご家族が集まる前に形にしておきたいというお声が続いています。多いお尋ねは、何をどう進めることになるのか、いくらかかるのか、の二つです。
公正証書遺言は、2人以上の証人が立ち会うなかで、公証人が遺言者から内容を聞き取り、文書にまとめて読み聞かせる方式で作られる遺言です。原本は公証人が保管し、遺言者が亡くなったあとの家庭裁判所の検認も要りません。
公証人は、「判事,検事,法務事務官などを長く務めた法律実務の経験豊かな者の中から法務大臣が任免し」ます。法務局または地方法務局に所属し、全国に約500名、公証役場は約300箇所あります(法務省「公証制度」)。民間の資格者ではなく、公の立場で証書を作る人です。
作り方の骨格も、同じページに書かれています。「公証人が遺言者の話した言葉を聞き取り,その内容を文書にまとめ,それを遺言者に読んで聞かせて作成するという方式」です。遺言者が文字を書く必要はありません。手が震えて細かい字が書けなくなった方からのご相談が多いのは、この点があるからです。
利用は年々広がっています。法務省民事局参事官室「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」によれば、作成件数は平成30年(2018年)が110,471件、令和6年(2024年)が128,378件でした。6年ほどで2万件近く増えた計算になります。
公正証書遺言は公証役場で作ります。名古屋法務局の管内には11か所の公証役場があり、そのうち名古屋市内は3か所です。名古屋市東区には葵町公証役場があり、白壁からは歩いていける距離にあります。
名古屋法務局の公証役場一覧によると、市内の3か所は、東区代官町の葵町公証役場、熱田区神宮の熱田公証役場、中村区名駅南の名古屋駅前公証役場です。
市外では、春日井公証役場が「春日井市鳥居松町4-52」にあります。名古屋法務局春日井支局と同じ町内ですので、登記と遺言の相談を同じ日に回れます。ほかに一宮・半田・岡崎・豊田・豊橋・西尾・新城にもあり、岐阜県内の方は岐阜地方法務局の管内の役場をお使いになります。
体調の面で公証役場まで行けないときはどうなるのか。大分地方法務局の案内には、出頭が原則であるとしたうえで「公証人が出張することが可能」と書かれています。入院中などの取扱いは役場ごとに違いますので、事前にお尋ねください。
公証役場に連絡して作りたい内容を伝え、財産と相続人を確かめて書類をそろえ、公証人が原案を作ったうえで、日を決めて証人2人以上とともに出向き、読み聞かせを受けて署名する、という順に進みます。
| 順番 | すること |
|---|---|
| 1 | 公証役場に連絡し、作りたい内容を伝える |
| 2 | 財産と相続人を確かめ、書類をそろえる |
| 3 | 公証人が原案を作り、内容を確認する |
| 4 | 証人2人以上を決める |
| 5 | 日を決めて公証役場へ出向く |
| 6 | 読み聞かせを受けて署名する |
表1 公正証書遺言ができるまでの順番です。方式の骨格は法務省「公証制度」の説明に沿っています。相談と書類の準備の進め方は、役場や事案によって変わります。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
いちばん時間がかかるのは2番目です。どの不動産を誰に渡すのかを決めるには、登記の内容を確かめておく必要があります。登記簿の土地の個数が、ご本人の思っていた数と違っていることは、めずらしくありません。
原案ができると、公証人から内容の確認を求められます。甲府地方法務局と函館地方法務局の案内には「遺言の内容について、公証人の助言を受けることができます。」とありますので、分かりにくいところは遠慮なくお伝えください。当事務所では、案文を整え、公証役場とのやりとりと当日の段取りをご案内しています。
証人は2人以上です。未成年者、推定相続人や受遺者とその配偶者・直系血族、公証人の配偶者や四親等内の親族などは証人になれません。お子さんやお孫さんには頼めない仕組みになっています。
法務省の資料は、証人になれない人として次の3つを挙げています。
同じ資料は、証人の役割を「遺言者に人違いのないことを確認すること」と「遺言者が正常な精神状態の下で自らの真意に基づき遺言の趣旨を公証人に口授するものであることを確認すること」の二つだと説明しています。身近なご家族が外れるのは、財産を受け取る側が立ち会うとこの確認が成り立たなくなるためです。
ご相談の場で、ご長男に証人をお願いするおつもりだった方がいらっしゃいました。全文を書くのがつらいので公正証書にしたい、証人は息子と嫁に頼めばよいだろう、というお考えでした。推定相続人とその配偶者は証人になれませんので、別のあてを探すことになりました。頼める人が身内にいないことに驚かれる方は多く、早めに見当をつけておくと楽になります。(※事例は個人情報保護のため一部を改めています)
もうひとつ知っておいていただきたいのは、立ち会う2人には遺言の中身が分かる、ということです。大分地方法務局の案内は「証人2名が必要で、内容を秘密にできない。」と書いています。誰に頼むかは、どこまで知られてよいかという問題でもあります。
公正証書遺言の作成には、財産の価額に応じた手数料がかかります。額は公証人手数料令という政令で定められており、財産がいくらで、誰に何を渡すかによって変わる仕組みです。定額ではありません。
法務省の「公証制度」のページは、公証人が受け取れるものを「手数料,送達に要する料金,登記手数料,日当及び旅費」に限り、その額は「公証人手数料令の定めるところ」によると説明しています。公証人は国からの給与や補助金を受けず、手数料収入で役場を運営しています。
比べる相手として挙がるのが、自筆で書いた遺言書を法務局に預ける自筆証書遺言書保管制度です。こちらの手数料は保管の申請1件につき3,900円で、財産の額にかかわらず同じです(甲府地方法務局・函館地方法務局)。決まり方が違いますので、金額を並べて比べるより、どちらの形がご事情に合うかで考えるほうが迷いません。
公証役場の手数料とは別に、案文の作成や段取りを専門家に依頼する費用がかかります。当事務所にご依頼いただく場合の費用は、ホームページの料金ページでご案内しています。
できあがった遺言書の原本は、公証人が厳重に保管します。遺言者が亡くなったあとも家庭裁判所での検認手続は不要とされていますので、ご家族は検認を待たずに相続の手続きを始められます。
この2点は、甲府地方法務局と函館地方法務局の案内が同じことを述べています。公正証書遺言は「専門家である公証人が、2人以上の証人のもと、厳格な方式に従い作成します」、「公証人が厳重に保管します」、「遺言者本人の死亡後、家庭裁判所での遺言書の検認手続は不要です」。2つの法務局の案内が一致しています。
検認が要らないことは、相続登記の場面で効いてきます。静岡地方法務局の相続登記の申請書の記載例には、「登記手続に際して,登記所に自筆証書遺言を提出する場合,家庭裁判所の検認済証明書付きのものであることを要します。」と書かれています。自筆で書いて自宅に置いていた遺言書で名義を変えるには、まず検認を経る必要があります。公正証書遺言はこの一手間が生じません。
2026年(令和8年)6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律で、証人になれない人の範囲が広がります。あわせて2025年(令和7年)10月1日からは、公正証書が原則として電子データで作られる扱いに変わりました。
改正法(令和8年法律第45号)の概要資料によれば、押印を任意とする見直しの対象は「自筆証書遺言、秘密証書遺言、特別の方式の遺言」です。公正証書遺言については、「公正証書遺言における遺言者等の押印要件は、令和5年の公証人法改正により廃止」されています(法務省)。
公正証書遺言に関わるのは証人の話です。改正では、証人等の欠格事由について「受遺者のみならず、その被用者(受遺者が法人の場合には、その被用者及び役員)も欠格事由とする」とされました(法務省)。中間試案の補足説明には、「遺言者が入所している介護施設を運営する法人に遺贈をしようとする場合に当該法人の従業員が証人となることは相当ではないのではないか」という指摘があったと書かれています。施設への御礼として法人に財産を渡す遺言は実際にありますので、施行後はその職員の方に証人を頼めなくなります。
施行の時期は、押印の任意化などについて「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされています(法務省)。2026年10月10日の時点で、施行期日を定める政令は見つけられませんでした。施行までは今の決まりのままです。
デジタル化のほうは、すでに動いています。法務省の資料では、「公正証書は原則として電子データで作成・保存」され、「嘱託人が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議の利用が可能に」なりました。書面での交付は「引き続き選択可能」です。ただしこの資料は公正証書全般についてのもので、遺言公正証書でウェブ会議をどこまで使えるかには触れていません。お使いになれるかは、相談の際に公証役場でお確かめください。
公正証書遺言について、ご相談の場でよくお尋ねいただく点を3つ挙げます。いずれもご事情によって結論が変わりますので、進め方の目安としてお読みください。
推定相続人や受遺者とその配偶者・直系血族に当たらなければ、証人をお引き受けできる場合があります。当事務所でも、頼める方が身内にいらっしゃらないときに立ち会わせていただくことがあります。ご家族との関係に欠格事由が当たらないかを確かめたうえでお受けしています。
大分地方法務局の案内には「公証人が出張することが可能」と書かれていますので、入院先やご自宅で作成できる余地があります。ただし取扱いは役場ごとに違い、日当や旅費の扱いも出てきます。まずは公証役場にお尋ねください。
新しく公正証書遺言を作ることはできます。前に書いたものとの関係をどう整理するかが要になりますので、古い遺言書は捨てずにお持ちになってご相談ください。
どの方式が向くかは、財産の内容、ご家族の形、ご本人の体調によって変わります。費用と手間をかけて確かな形にしておきたいのか、まず形にしておきたいのか。そこが分かれ目になります。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 手が震えて全文を書くのがつらい | 公証人が聞き取って作る公正証書遺言が向きます |
| 不動産が多く、書き方に迷いがある | 公証人の助言を受けられる公正証書遺言が向きます |
| 費用を抑えて形にしておきたい | 自筆で書き、法務局に預ける方法もあります |
| 入院中で公証役場へ行けない | 出張してもらえるかを公証役場にお尋ねください |
| 証人を誰に頼めばよいか分からない | 推定相続人とその配偶者を外して探します |
| すでに自筆の遺言書がある | 方式を確かめたうえで、作り直すかを決めます |
| 相続人のあいだで争いになりそう | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 ご状況ごとの進め方の目安です(法務省・各地方法務局の資料、2026年10月10日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
年末年始にご家族が集まる前に、どの財産を誰に渡したいかだけでも書き出しておかれると、相談の一回目が実のあるものになります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:法務省「公証制度」、法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」、法務省「民法等の一部を改正する法律の概要」、法務省民事局参事官室「民法(遺言関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」、法務省「公正証書の作成に係る一連の手続のデジタル化について」、名古屋法務局「公証役場一覧」、甲府地方法務局「自筆証書遺言書保管制度の利用をお考えの方へ」、函館地方法務局「あなたの遺言書を法務局に預けてみませんか」、大分地方法務局(遺言書の保管方法の案内)、静岡地方法務局(登記申請書の記載例)
この記事は 2026年10月10日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは公証役場・法務局等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年10月10日
遺言書の作り方について、名古屋市東区白壁の当事務所では初回のご相談を60分無料でお受けしています。どの方式が合うのか、何から手をつけるのか。そこだけでもはっきりすると、気持ちが軽くなります。愛知・岐阜のご相談に対応しておりますので、まずはお気軽にお声がけください。