
秋のお彼岸が過ぎ、名古屋市東区の当事務所でも、年末年始にご家族が集まる前に遺言書を見直したいというご相談が増えてきました。何年か前の遺言書を前に、考えが変わったとおっしゃる方は少なくありません。
遺言書はあとから何度でも書き直せます。ただし書き直し方には決まりがあり、法務局に預けている場合は手続が一段増えます。前の遺言書の扱いを誤ると、どちらが生きているのか分からなくなります。順に見ていきます。
遺言書は、一度書いたあとでも、いつでも全部または一部を撤回できます。撤回には遺言の方式に従う必要があり、新しい遺言書を書く、前の遺言書と違う内容を書く、遺言書そのものを破り捨てる、という三つの方法があります。
法務省の部会資料「遺言に関する見直し」は、「現行法では,遺言は,遺言者がその後に自由に撤回することができるが,他方で,その方式は遺言の方式に従って行わなければならないものとされている(民法第1022条)。」と説明しています。撤回に理由は要らず、ご家族の同意も要りません。
何度書き直しても、いちばん後に書いた遺言が生きます。お子さんの暮らしやご自身の体調が変わったときに、そのつど見直していただいてかまいません。
遺言を撤回する方法は、新しい遺言書で前の遺言書を撤回すると書く、前の遺言書と抵触する内容の遺言書を書く、遺言者が自分で遺言書を故意に破棄する、の三つです。どの方法も、民法が定めた遺言の方式に従って行います。
二つめについて、同じ部会資料は「また,現行法では,前の遺言が後の遺言と抵触するときは,その抵触する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすこととされている(民法第1023条第1項)ため,」と述べています。前と違うことを書けば、食い違う部分だけが置き換わります。
三つめについては、同じ資料が「現行法では,遺言者が故意に遺言書を破棄したときは,その破棄した部分については,遺言を撤回したものとみなすとされている(民法第1024条前段)が,」と記しています。ご自身の手で破り捨てれば、その部分は撤回したことになります。
実務では、一つめと二つめを組み合わせるのが確かです。新しい遺言書の冒頭に、前にした遺言は全部撤回するという一文を置き、そのうえで新しい内容を書きます。前の遺言書が残っていても迷いません。
書き直した遺言書も、自筆証書遺言であれば全文と日付と氏名を自分の手で書き、押印する必要があります。日付は年月日まで入れます。前の遺言書より新しい日付であることが、どちらが後の遺言かを決める手がかりです。
法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」は、「民法第968条第1項は,自筆証書遺言をする場合には,遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自書(自ら書くことをいいます。)して,これに印を押さなければならないものと定めています。」と説明しています。書き直した遺言書も、この決まりを満たさなければ使えません。前の遺言書と同じ日付になると、前後が分からなくなります。
書き直す日の年月日をそのまま入れてください。書き直した遺言書は、のちにご家族が名古屋の相続登記や預貯金の手続で使うものです。読んだ人が迷わない書き方かも見ておいてください。
なお、2026年(令和8年)6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)で、自筆証書遺言の押印は任意になります。法務省の案内では、押印の任意化等は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」からの施行とされ、2026年10月22日の時点では政令が公布されていません。それまでは押印が要ります。
遺言書の一部だけを直すときは、加除訂正の決まりに従います。変更した場所を指示し、変更した旨を付記して署名し、変更の場所に印を押さなければ、その変更は効力を生じません。手間を考えると、書き直すほうが確かな場合もあります。
法務省の「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」には、民法第968条第3項として「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」と載っています。手順を一つ飛ばすと、直したつもりの部分が効きません。分け方を変えるのであれば、紙を新しくして書き直すほうが確かです。
法務局に預けた遺言書は、保管の申請の撤回をすると返してもらえます。撤回ができるのは遺言者本人だけで、手続ができるのは原本を保管している遺言書保管所に限られます。手数料はかからず、予約が必要です。
法務省「自筆証書遺言書保管制度」の案内は、「遺言書の保管の申請の撤回ができるのは、その遺言書を作成した遺言者本人のみです。」「撤回を行うことができる遺言書保管所は、遺言書の原本が保管されている遺言書保管所のみです。」と記し、手数料についても「(5)手数料は不要です。」としています。
窓口に出す書類は撤回書です。法務省「遺言書の保管の申請の撤回書の記入上の注意事項」も、「撤回は、遺言書が現に保管されている遺言書保管所に対して行う必要があります。」と念を押しています。氏名や住所が変わっている場合は、変更を証明する書類の添付が必要とされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 撤回ができる人 | 遺言書を預けた遺言者本人だけ |
| 撤回ができる場所 | 原本を保管している遺言書保管所のみ |
| 手数料 | かかりません |
| 必要な手続 | 撤回書を出し、予約をとって出かけます |
| 撤回したあと | 遺言書の原本が返されます |
表1 法務省「自筆証書遺言書保管制度」と法務省民事局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」をもとに作成しました(2026年10月22日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
法務省「予約」のページは「予約を行うことができる期間は、30日先までです。」「当日の予約はできません。」と案内しています。思い立った日に出向いても手続はできません。先に予約をとってください。
名古屋市東区のご相談で、数年前に遺言書を法務局に預けた方が、内容を変えたいとおっしゃって名古屋法務局の本局へ出向かれたことがありました。預けた先は春日井支局でしたので本局では受け付けてもらえず、後日あらためて春日井へ出直すことになりました。どこに預けたかを書き留めておけば避けられたひと手間です。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
法務省「遺言書保管所一覧」によれば、愛知県の遺言書保管所は名古屋法務局の本局と、豊橋・岡崎・一宮・半田・春日井・津島・刈谷・豊田・西尾・新城の各支局の計11か所です。名古屋の方が春日井支局で預けられることもありますので、控えを手元に置いておかれると安心です。
保管の申請の撤回は、法務局に預けるのをやめる手続であり、遺言そのものを撤回する手続ではありません。返してもらった遺言書を破棄しない限り、その遺言書は有効なまま残ります。預けるのをやめただけでは内容は消えません。
法務省民事局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」は、「遺言書の保管の申請の撤回は、法務局(遺言書保管所)に遺言書を預けることをやめることであり、返還を受けた遺言書を物理的に廃棄しない限り、その遺言の効力とは関係がありません。」と明記しています。
東京法務局「保管申請の撤回や変更届出について」も、「撤回をしてご自宅などに保管するようになった場合でも遺言の効力とは関係ありませんので、ご安心ください。」と案内しています。二つの案内が一致しています。
内容を変えたいときは、法務省「自筆証書遺言書保管制度」の案内が「預けている遺言書の内容を変更したい場合なども、一度撤回の上、その遺言書の内容を変更して再度保管の申請をすることをおすすめしています。」としています。預け直すときは、保管の申請の手数料として1件3,900円がかかります。
撤回された遺言は、その撤回の行為があとで撤回されたり取り消されたりしても、効力を回復しません。二番目の遺言書で一番目を撤回し、そのあと二番目を破り捨てても、一番目の遺言は生き返りません。錯誤や詐欺、強迫による場合は例外とされています。
新旧対照条文に載る民法第1025条は、「前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。」と定めています。前の内容に戻したいのであれば、同じ内容をもう一度書くのが確かです。
遺言書の撤回と書き直しについて、名古屋市東区の当事務所によくお寄せいただくご質問を三つ挙げます。古い遺言書の扱い、法務局の手続との違い、かかる費用の三点です。
古い遺言書は破って捨てておいたほうがよいのでしょうか、というご質問です。新しい遺言書に、前にした遺言は全部撤回すると書いてあれば、古い遺言書が残っていても新しいほうが生きます。ご家族が古いものだけを見つけてしまうと、家庭裁判所の検認から始まる遠回りになります。差し支えなければ、手元に残さないほうが混乱は減ります。
法務局に預けた遺言書の保管をやめれば、その遺言も撤回されますか、というご質問です。撤回されません。保管の申請の撤回は、預けるのをやめて原本を返してもらう手続にとどまります。返された遺言書をご自宅に置いたままにすれば、有効なまま残ります。内容を変えたいなら、書き直しまで進めてください。
保管の申請の撤回そのものに手数料はかかりません。いっぽう、内容を変えて預け直すときは、保管の申請として3,900円が必要です。家庭裁判所に遺言書の検認を申し立てる場合は、裁判所の案内によれば遺言書1通につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手が要ります。
遺言書を書き直したいときの進め方は、お持ちの遺言書をどこに置いているかで変わります。自宅にあるのか、法務局に預けているのか、公証役場で作ったのかの三つに分けて考えると、次に動く先がはっきりします。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| これから内容を変えたい | 新しい遺言書を書いて日付を入れます |
| 一部だけ直したい | 加除訂正の決まりに沿って直します |
| 法務局に預けた遺言書をやめたい | 原本を保管している遺言書保管所で撤回します |
| 預けたまま内容を変えたい | 撤回してから新しい遺言書を預けます |
| 古い遺言書が家で見つかった | 日付を見比べてから家庭裁判所の検認へ |
| 公正証書遺言を書き直したい | 公証役場にお尋ねになるのが確かです |
| 家族で争いになりそう | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
公正証書遺言を書き直したいときは、作成した公証役場にお尋ねになるのが確かです。公証人が関わって作った遺言書ですので、段取りもその役場で教わるのが早道です。
家庭裁判所の手続については、提出する書類の作成という立場でお手伝いできますが、手続そのものを代理することはできません。裁判所「遺言書の検認」は、検認について「遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。」としています。公正証書による遺言と、法務局に保管された遺言書について交付される「遺言書情報証明書」は検認が要らないことも、同じページに示されています。
年末年始にご家族がお集まりになる前に、お持ちの遺言書の日付を見比べて、どれが最後のものかを確かめておかれると安心です。争いになりそうなご事情であれば、書き直す前に弁護士へご相談いただくほうが早いこともあります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:法務省(部会資料「遺言に関する見直し」)/法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」/法務省「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」/法務省「自筆証書遺言書保管制度」/法務省民事局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」/法務省「遺言書の保管の申請の撤回書の記入上の注意事項」/法務省「予約」/法務省「遺言書保管所一覧」/東京法務局「保管申請の撤回や変更届出について」/裁判所「遺言書の検認」
この記事は 2026年10月22日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・家庭裁判所・公証役場等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年10月22日
遺言書の書き直しについてのご相談は、名古屋のやさしい相続相談室までお気軽にお寄せください。