
お子さんのいないご夫婦から、「私が先に亡くなったら、この家は妻のものになりますか」とお尋ねをいただきます。名古屋市東区の当事務所では、秋のお彼岸が過ぎたころから、このお尋ねが続いています。
お答えすると、遺言書がなければ、ご自宅もご預金も、残された配偶者だけのものにはなりません。お子さんがいないご夫婦では、亡くなった方のご両親、ご両親も祖父母もいなければご兄弟姉妹、そのご兄弟姉妹が先に亡くなっていれば甥や姪が相続人になります。遺言書を残しておくかどうかで、残された方の手間は変わります。
お子さんのいないご夫婦では、配偶者とともに、亡くなった方のご両親などの直系尊属が相続人になります。ご両親も祖父母もいなければ、配偶者とご兄弟姉妹が相続人になります。
国税庁の「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」は、相続人の順位を第3順位まで示しています。第2順位は直系尊属で、「第2順位の人は、第1順位の人がいないときに相続人になります。」とされています。第3順位が兄弟姉妹で、「第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。」とされています。
配偶者とご兄弟姉妹が相続人になる場合の法定相続分は、同じ案内が「配偶者4分の3 兄弟姉妹(2人以上のときは全員で)4分の1」と示しています。配偶者とお子さんなら2分の1ずつ、配偶者と直系尊属なら3分の2と3分の1ですから、ご兄弟姉妹の取り分がいちばん小さい組み合わせです。
ご兄弟姉妹のどなたかが先に亡くなっていれば、その方のお子さん、つまり甥や姪が相続人になります。同じ案内は「その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。」と説明しています。ご兄弟姉妹が4人で、そのうち2人が先に亡くなり、それぞれにお子さんが2人いれば、配偶者のほかに6人が相続人になります。
| ご家族の状況 | 相続人になる方 | 法定相続分 |
|---|---|---|
| お子さんがいる | 配偶者とお子さん | 配偶者が2分の1、お子さんが2分の1 |
| お子さんがなく父母が存命 | 配偶者と父母 | 配偶者が3分の2、父母が3分の1 |
| 父母も祖父母もいない | 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1 |
| 兄弟姉妹が先に亡くなっている | 配偶者と甥、姪 | 配偶者が4分の3、甥と姪で4分の1 |
| 相続人が配偶者だけ | 配偶者のみ | 配偶者がすべて |
表1 お子さんのいないご夫婦の場合に誰が相続人になるかを、法定相続分とあわせて並べました。国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」をもとに作成しました(2026年10月26日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
遺言書がない場合、遺産の分け方は相続人全員の話し合いで決めます。配偶者お一人の判断では、ご預金の解約もご自宅の名義の変更も進められません。
話し合いの前に、相続人がどなたなのかを戸籍で確かめる作業が立ちはだかります。家庭裁判所が遺産分割の調停の必要書類に挙げている「相続人全員の戸籍謄本」は、金融機関や法務局の窓口でも同じように求められます。
名古屋市東区のご相談で、お子さんのいないご夫婦が「どちらかが残ったら、残った者が全部受け取る」と話し合って決めていらしたのに、遺言書を一通も残していなかった例がありました。ご主人が亡くなったあと、奥さまはご主人のご兄弟の戸籍を集めることから始まり、請求先が複数の市町村にまたがって、そろうまでにふた月ほどかかりました。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
戸籍がそろい、相続人全員の署名と押印をいただいてから、ようやく名古屋の相続登記やご預金の解約に進みます。遺言書があれば、この順番は要りません。
ご兄弟姉妹は、遺留分を持ちません。配偶者にすべての財産を相続させる遺言書を残しておけば、ご兄弟姉妹が取り分を求める立場にはなりません。
遺留分は、遺言書の内容にかかわらず相続人に残される最低限の取り分です。民法の条文は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として」と始まり、ご兄弟姉妹をはじめから外しています(法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」)。函館地方法務局の文例集も、遺留分について「被相続人の兄弟姉妹には認められていません。」と書いています。
いっぽう、ご両親や祖父母が相続人になる場合には遺留分があります。同じ条文は、直系尊属のみが相続人である場合の割合を3分の1、それ以外を2分の1と定めており、相続人が数人あるときは、これに各自の相続分を掛けた割合になります。遺留分を持つ方は、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できる立場にあります。
どなたにどれだけの遺留分があるかの判断は、ご家族の事情と財産の内容で変わります。争いになりそうなご事情であれば、遺言書を書く前に弁護士へご相談いただくほうが早いこともあります。
配偶者にすべての財産を残したいときは、すべての財産を配偶者に相続させる旨の一文で足ります。お名前は、氏名と生年月日まで書いて特定します。
函館地方法務局の「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」には、「夫婦だけで子どもがいない(夫の父母は存命)場合で、妻に全財産を残したい場合」という項目があります。文例は「遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、遺言者の妻函館花子(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。」です。財産を一つずつ書き並べる手間もかかりません。
同じ文例集には、遺言執行者を配偶者に指定する一文として「遺言者は、妻花子を遺言執行者に指定する。」が並んでいます。遺言執行者を決めておくと、残された配偶者が手続きを進めやすくなります。
同じ文例集には付言事項の例もあり、「花子と出会うことができてとても幸せでした。感謝しています。」という一文が添えられています。法律の上の効力はありませんが、ご兄弟姉妹が遺言書を目にする場面を思えば、書き残す値打ちがあります。
配偶者が遺言者より先に亡くなることもあります。そのときに次の受け取り手を書き添えておくと、遺言書が行き先を失わずに済みます。
函館地方法務局の文例集には、「ただし、妻花子が遺言者より先又は遺言者と同時に死亡した場合は、その有するすべての財産を、遺言者の長男函館一雄(昭和○○年○○月○○日生)に相続させる。」というただし書きが載っています。文例はお子さんを挙げていますが、お子さんのいないご夫婦では、お世話になったご親族やご縁のある方のお名前を書き添えます。
ご兄弟姉妹や甥、姪が相続人になる相続では、亡くなった方のご両親の出生から死亡までの戸籍まで必要になります。集める範囲が、お子さんがいる相続より広がります。
裁判所は、遺産分割の調停の必要書類に、どの相続でも共通で「被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本」を挙げています。相続人が配偶者だけの場合と、ご兄弟姉妹やその代襲者(おいめい)が相続人になる第三順位相続人の場合には、さらに「被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本」と「被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本」が要るとされています。
ご兄弟姉妹に先に亡くなった方がいれば、その方の出生から死亡までの戸籍も加わります。令和6年3月1日から始まった広域交付も、この場面では使いきれません。法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」が請求できる方として挙げているのは、本人、配偶者、「父母、祖父母など(直系尊属)」、「子、孫など(直系卑属)」で、ご兄弟姉妹は挙げられていません。同じ案内には「郵送や代理人による請求はできません。」とも、「※ コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍を除きます。」とも書かれています。
名古屋市の「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)・住民票の写しなどの証明」のページは、「原則として戸籍関係は本籍地、住民票関係は住所地の区役所市民課(支所管内は支所区民生活課)へ請求してください。」と案内しています。手数料は戸籍全部事項証明書が1通450円、除籍や改製原戸籍が1通750円です。
同じページには「郵送請求もできます。」とあり、遠方の分は郵送で取り寄せられます。「名古屋市内に本籍地のない方は、本籍地の市区町村役場へ請求してください。」ともありますので、本籍地が市の外にある戸籍は、その市区町村へ別に請求することになります。手数料は市区町村ごとに違いますので、請求先でご確認ください。
相続人のあいだで話し合いがつかないときは、家庭裁判所の遺産分割の調停か審判を利用できます。申立先は、相手方のうちのお一人の住所地の家庭裁判所です。
裁判所の「遺産分割調停」の案内は、「被相続人が亡くなり,その遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができます。」と説明しています。申立先は「相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所」で、費用は「被相続人1人につき収入印紙1200円分」と連絡用の郵便切手です。「郵便料は裁判所ごとに異なります。」とされていますので、申立先でご確認ください。
この申立先の決まりは、お子さんのいない相続で見落とされやすいところです。ご兄弟姉妹が県外にお住まいであれば、申立先は名古屋家庭裁判所ではなく、そのご兄弟姉妹の住所地の家庭裁判所になります。名古屋市東区にお住まいの奥さまが、ご主人のご兄弟の住む土地の裁判所まで出向く場合もあります。
司法書士は、家庭裁判所に提出する書類の作成という立場でお手伝いできますが、手続きそのものを代理することはできません。相続人のあいだで主張が分かれているご事情であれば、弁護士へのご相談が適しています。
お子さんのいないご夫婦から繰り返しいただくお尋ねを、3つ挙げます。いずれも、遺言書を書くかどうかを決める前に押さえておきたい点です。
遺言書がなければ、奥さまが全部を受け取る形にはなりません。お子さんがいないご夫婦では、ご主人のご両親などの直系尊属、直系尊属がいなければご兄弟姉妹が、奥さまとともに相続人になります。国税庁の案内では、配偶者とご兄弟姉妹の法定相続分は4分の3と4分の1です。すべてを奥さまにお渡しになるには、遺言書が要ります。
ご兄弟姉妹だけが相続人になる場合、配偶者にすべての財産を相続させる遺言書を残しておけば、ご兄弟姉妹へお渡しする分はありません。ご兄弟姉妹には遺留分がないためです。ただし、ご両親や祖父母が存命であれば、その方々には遺留分がありますので、同じようにはなりません。
ご兄弟姉妹が先に亡くなっていて、その方にお子さんがいれば甥や姪が相続人になりますので、遺言書がなければ話し合いの相手になります。普段お付き合いのない方に連絡を取り、戸籍と住所を調べる手間がかかります。遺言書があれば、この連絡そのものが要りません。
お子さんのいないご夫婦が取れる手は、ご家族の形によって変わります。今のご状況に近い行から読んでいただけるよう、進め方をまとめます。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| これから遺言書を書く | すべての財産を配偶者に相続させる一文を入れておきます |
| 配偶者に全部を残したい | 氏名と生年月日まで書いて特定します |
| 父母や祖父母が存命 | 遺留分がありますので書く前に確かめます |
| 配偶者が先に亡くなる場合 | 次の受け取り手を書き添えておきます |
| 本籍地が名古屋市の外にある | 本籍地の市区町村へ郵送で請求します |
| 甥や姪と連絡が取れない | 戸籍と住所を調べることから始めます |
| 相続人のあいだで主張が分かれる | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
年末年始にご家族がお集まりになる前に、お二人それぞれが遺言書を一通ずつ書いておくだけで、残された方が戸籍を集めて回る時間はなくなります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」、法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」、法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」、函館地方法務局「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」、裁判所「遺産分割調停」、名古屋市「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)・住民票の写しなどの証明」
この記事は 2026年10月26日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは家庭裁判所・市区町村の窓口等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)/司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。最終更新日:2026年10月26日
お子さんのいないご夫婦の遺言書について、名古屋のやさしい相続相談室(司法書士法人白壁事務所(しらかべ))が承っています。まずはお気軽にご相談ください。