
「私が先に亡くなったら、この家はあの人のものになりますか」。名古屋市東区の当事務所では、秋のお彼岸が過ぎたころから、婚姻届を出していないご夫婦にこうお尋ねいただきます。
先にお答えしますと、婚姻届を出していないお相手は相続人になりません。一緒に暮らした年数では変わりません。けれども遺言書を一通書いておけば、ご自身の財産をお相手に渡せます。何をどう書くのかを順に見ていきます。
婚姻届を出していないお相手は、相続人になりません。一緒に暮らした年数や、同じ住民票に載っていることでも変わりません。財産をお相手に渡すには、遺言書を書いておく必要があります。
国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」には「内縁関係の人は、相続人に含まれません。」と書かれています(2026年10月29日確認)。事実婚のご夫婦にとっては、ここが出発点になります。
同じページは相続人になる方の順位も挙げています。配偶者は常に相続人になり、お子さんが第1順位、ご両親などの直系尊属が第2順位、ご兄弟姉妹が第3順位です。第1順位も第2順位もいらっしゃらないときに、ご兄弟姉妹が相続人になります。
お相手のお子さんも、養子縁組をしていなければ相続人になりません。誰に何を渡したいのかを、関係ごとに並べて確かめておきます。
| 渡したいお相手 | 相続人になるか | 渡すために必要なこと |
|---|---|---|
| 婚姻届を出した配偶者 | なります | 遺言書がなくても相続します |
| 事実婚のパートナー | なりません | 遺言書に遺贈すると書きます |
| 養子縁組をしていないパートナーのお子さん | なりません | 遺言書に遺贈すると書きます |
| ご自身のお子さん | なります | 遺言書がなくても相続します |
| ご兄弟姉妹 | お子さんもご両親もいないときはなります | 遺言書がなくても相続します |
表1 渡したいお相手ごとに、相続人になるかどうかと、渡すために必要なことを並べました。国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」をもとに作成しました(2026年10月29日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
遺言書がないまま相続が始まると、ご自宅や預金は相続人の手に移ります。事実婚のお相手は遺産分割の話し合いに加われず、長く住んでいたお住まいであっても名義を引き継げません。
名古屋市東区のご相談で、長く連れ添われたご夫婦のお話をうかがいました。「籍は入れていないけれど、この家はお互いのものだ」と、お二人で決めていらしたそうです。ところが遺言書がなく、ご主人が亡くなったあと、お住まいの名義はご主人のご兄弟に移りました。奥さまは住み続けられましたが、4月に固定資産税の通知が届くたびに心細くなるとおっしゃっていました。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
お二人の取り決めは、遺言書という形にして初めて効き目を持ちます。
事実婚のお相手に財産を渡す遺言書では、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。相続人でない方へ財産を渡すことを、民法は遺贈と呼びます。お相手の住所と氏名、生年月日まで書いて特定します。
函館地方法務局の「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」(令和6年5月作成)には、「⑦事実婚の相手に財産を譲る場合」という項目が置かれています(2026年10月29日確認)。
文例は「1 遺言者は、遺言者が有するすべての財産を、北海道函館市××町○○番○○号に在住の内縁の妻北斗理恵(昭和○○年○○月○○日生)に遺贈する。」というものです。住所から書き起こすのが要で、同姓同名の方と区別できるようにしておきます。
文例集は付言事項の例も添えています。「先妻の子どもたちには、生前に財産を贈与しているので、どうか理恵への配慮をお願いします。」という一節で、法律の効き目はありませんが、残された方々の受け取り方は変わります。
遺贈を実際に行うのは遺言執行者です。民法は、遺言執行者がいる場合、遺贈の履行は遺言執行者だけが行えると定めています。お相手が手続きを進められるよう、遺言書で遺言執行者を決めておきます。
法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」に載る民法1012条2項は、「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。」と定めています(2026年10月29日確認)。
函館地方法務局の文例集も、⑦の文例に「2 遺言者は、内縁の妻北斗理恵を遺言執行者に指定する。」という一文を続けています。受け取るご本人を遺言執行者に指定しておく形です。
同じ文例集には、受け取る方が遺言者より先に、または同時に亡くなった場合に備えた「ただし書き」の形も載っています。予備の定めを一文添えておく形です。
お子さんやご両親が相続人になる場合、その方々には遺留分があります。全財産をお相手に遺贈する遺言書を書いても、遺留分に相当する金銭の支払いを請求される余地が残ります。
法務省の新旧対照条文に載る民法1042条1項は「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として」と始まり、相続人が誰かに応じた割合の金額を受けると定めています。民法1046条1項は、遺留分権利者が受遺者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求できるとしています(2026年10月29日確認)。
条文の書き出しのとおり、ご兄弟姉妹には遺留分がありません。お子さんもご両親もいらっしゃらないご夫婦では、全財産をお相手に遺贈する遺言書がそのまま通ります。同じ文例集の遺留分の説明にも、兄弟姉妹には遺留分が認められていないことが書かれています。
お子さんがいらっしゃる場合は、渡し方を考える余地が出てきます。遺留分の有無や金額は財産の中身とご家族の構成で変わりますので、ここで判定することはできません。主張が分かれそうなご事情であれば、遺言書を書く前に弁護士へご相談いただくほうが早いこともあります。
遺贈でご不動産をお相手に渡すときは、遺贈による所有権移転登記を申請します。遺言書のほかに、遺贈者が亡くなった事実の載った戸籍と、受け取る方の戸籍と住民票の写しが必要になります。
法務局「登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)」(令和8年4月)は、添付書類として遺言書、遺贈者の死亡の事実が記載された戸籍の証明書、受遺者の戸籍の証明書、受遺者の住民票の写しを挙げています(2026年10月29日確認)。
この案内が対象にしているのは「相続人に対する遺贈」です。相続人への遺贈は、令和5年4月1日から受遺者が単独で申請できるようになり、登録免許税は1000分の4とされています。事実婚のお相手は相続人ではありませんので、この案内の対象に含まれていません。申請の形と税率は、申請の前に法務局でご確認ください。
戸籍の段で立ち止まる方が多いのも、このテーマの特徴です。法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」の広域交付の案内で、請求できる方として挙げられているのは「本人」「配偶者」「父母、祖父母など(直系尊属)」「子、孫など(直系卑属)」の4つで、事実婚のお相手は挙げられていません(2026年10月29日確認)。
名古屋市「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)・住民票の写しなどの証明」は、戸籍関係を原則として本籍地の区役所市民課へ請求するよう案内しています。手数料は戸籍謄本が「1通450円」、除籍謄本と改製原戸籍謄本が「1通750円」です。「名古屋市内に本籍地のない方は、本籍地の市区町村役場へ請求してください。」ともあり、取扱いは市町村ごとに違います。
遺言執行者を決めておけば、この書類集めを執行者が担えます。名古屋の相続登記のご相談でも、手続きがいちばん止まりやすいのは戸籍をそろえる段です。事実婚のご夫婦では、お相手が古い戸籍まで取り寄せにくいぶん、執行者を決めておく値打ちが大きくなります。
相続人がいるかどうか明らかでないときは、家庭裁判所が相続財産清算人を選びます。清算を終えて残った財産は、被相続人と特別の縁故があった方へ分け与えられることがあります。
裁判所「相続財産清算人の選任」によると、申立人は「利害関係人(被相続人の債権者,特定遺贈を受けた者,特別縁故者など)」で、申立先は「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」です(2026年10月29日確認)。費用は「収入印紙800円分」と「官報公告料5582円(家庭裁判所の指示があってから納めてください。)」がかかります。相続人全員が相続放棄をして相続する方がいなくなった場合も、この手続きの対象になります。
裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」は、「家庭裁判所は,相当と認めるときは,被相続人と特別の縁故のあった者の請求によって,その者に,清算後残った相続財産の全部又は一部を与えることができます。」としています。申立人として挙げられているのは「被相続人と生計を同じくしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」などで、申立ての期限は「相続人を捜索するための公告で定められた期間の満了後3か月以内」です。
名古屋家庭裁判所の「相続財産清算人選任申立書」の書式には、利害関係を有する事情として「1 相続債権者」「2 特定受遺者」「3 相続財産の分与を請求する者」「4 その他」の選択肢が印刷されています(2026年10月29日確認)。分与を求める方が自分で申し立てる道が、書式の上でも用意されています。
ただし、これは遺言書がなかったときの最後の道で、受け取れると決まっているものではありません。家庭裁判所へ申し立てる方法もありますが、当事務所は家庭裁判所に提出する書類の作成という立場でお手伝いするまでで、手続きそのものを代理することはできません。ご事情によっては弁護士へのご相談が適しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てができるとき | 相続人がいるかどうか明らかでないとき |
| 清算人の選任の申立人 | 被相続人の債権者や特定遺贈を受けた方などの利害関係人 |
| 分与の申立人 | 被相続人と生計を同じくしていた方など |
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 分与の申立ての期限 | 相続人を捜索する公告の期間が満了してから3か月以内 |
| 収入印紙 | 清算人の選任と分与の申立てのいずれも800円分 |
| 官報公告料 | 清算人の選任で5582円 |
表2 裁判所「相続財産清算人の選任」と「特別縁故者に対する相続財産分与」をもとに作成しました(2026年10月29日確認)。郵便料は裁判所ごとに異なります。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
事実婚のご夫婦からいただくお尋ねのうち、特に多い3つをまとめました。いずれも、婚姻届を出していないお相手は相続人にならないという一点から話が始まります。
住民票を同じにしていても、相続人にはなりません。国税庁の案内が「内縁関係の人は、相続人に含まれません。」と述べているとおりで、同居の年数や住民票の記載で相続人が決まることはありません。お相手に財産を渡すには、遺言書に遺贈すると書きます。
お子さんもご両親もご兄弟姉妹もいらっしゃらない場合、全財産をお相手に遺贈する遺言書を書けます。ご兄弟姉妹だけが相続人になる場合も、遺留分がありませんので同じです。お子さんやご両親が相続人になる場合は、遺留分に相当する金銭を請求される余地が残ります。
相続人でない方が遺贈で財産を受け取る場合、相続税額の2割加算の対象になります。国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」は、加算金額を「各人の税額控除前の相続税額×0.2」としています(令和8年4月1日現在の法令等によるもの)。税額の計算や個別の課税関係については、税理士か税務署にご確認ください。
事実婚のご夫婦が取れる手は、遺言書を書くかどうかでほとんど決まります。お子さんやご両親がいらっしゃるかどうかで書き方が変わりますので、ご状況ごとに並べました。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| これから遺言書を書く | 財産をお相手に遺贈する形で書きます |
| お子さんがいらっしゃる | 遺留分に配慮した分け方を考えます |
| お子さんもご両親もいない | ご兄弟姉妹に遺留分はありませんので全部を遺贈できます |
| お相手に不動産を残したい | 遺言執行者を決めておきます |
| お相手が先に亡くなる場合に備えたい | 予備の定めを書き添えます |
| 本籍地が名古屋市の外にある | 本籍地の市区町村役場へ戸籍を請求します |
| 遺言書がないまま相続が始まった | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表3 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
年末年始にご家族やご親族がお集まりになる前に、お二人それぞれが遺言書を一通ずつ書いておくだけで、残された方が名義の手続きで立ち止まる時間はなくなります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。
出典:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」、国税庁「No.4157 相続税額の2割加算」、法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律新旧対照条文」、法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」、法務局「登記申請手続のご案内(遺贈による所有権移転登記/相続人に対する遺贈編)」、函館地方法務局「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」、裁判所「相続財産清算人の選任」、裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」、名古屋家庭裁判所「相続財産清算人選任申立書」、名古屋市「戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)・住民票の写しなどの証明」
この記事は 2026年10月29日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・家庭裁判所・市区町村の窓口・税務署等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年10月29日
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