
実家の田んぼや、代々受け継いできた山。使う予定はなく、買い手も見つからないまま固定資産税だけを払い続けている、というご相談を名古屋市東区の事務所でもお受けします。相続した土地を国に引き取ってもらう道は、令和5年(2023年)4月27日から開かれました。相続土地国庫帰属制度です。ただし、どの土地でも引き取ってもらえるわけではありません。引き取ってもらえる土地ともらえない土地の分かれ目を整理します。
相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって取得した土地を、審査を受けたうえで国に引き取ってもらう制度です。令和5年4月27日に始まりました。制度が始まる前に相続した土地も対象になります。
法務省は、この制度を「相続又は遺贈によって土地の所有権を取得した相続人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする」制度と説明しています(法務省「相続土地国庫帰属制度について」)。背景にあるのは、所有者の分からない土地が増えていることへの対策です。相続したまま登記も放置されますと、世代が進むにつれて誰のものか分からなくなっていきます。
利用の実績も公表されています。令和8年8月31日現在で承認申請の累計は5,997件、実際に国庫に帰属したのは3,119件です(法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」)。この差には審査中のものや取り下げも含まれますが、申請すればすべてが通る制度ではないことは読み取れます。
よく似た制度として相続放棄を思い浮かべる方がいらっしゃいますが、中身はかなり違います。
| 項目 | 相続放棄 | 相続土地国庫帰属制度 |
|---|---|---|
| 申し出る先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 | 土地がある都道府県の法務局の本局 |
| いつまでにするか | 相続の開始を知ったときから3か月以内 | 制度開始前に相続した土地も申請できます |
| 対象になるもの | 相続する財産のすべて | 相続や遺贈で取得した土地だけ |
| 申立て・申請の費用 | 収入印紙800円(申述人1人につき) | 審査手数料 土地1筆14,000円 |
| そのあとに納めるもの | 連絡用の郵便切手 | 承認されたあとに負担金 |
表1 相続放棄と相続土地国庫帰属制度の違い(裁判所・法務省の各資料、2026年9月28日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した方です。売買や生前の贈与で手に入れた土地は対象になりません。共有の土地は、共有者全員が一緒に申請することになります。
法務省は「本制度開始(令和5年4月27日)より前に相続等によって取得した土地についても、本制度の対象となります」としています(法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」)。祖父母の代で止まっている土地も、まずは検討の土俵に乗るということです。
共有の土地については、Q&Aに「共有地の承認申請に当たっては、共有者全員で承認申請をする必要」があると書かれています。兄弟姉妹で持ち合っている土地は、誰か一人が反対していると申請そのものができません。
申請先は、土地がある都道府県の法務局または地方法務局の本局の不動産登記部門です。身近な支局や出張所では受け付けていません。愛知県内の土地であれば名古屋法務局が窓口になります。
建物がある土地、抵当権などが設定されている土地、他人が使うことになっている土地、土壌が汚染されている土地、境界がはっきりしない土地は、申請しても却下されます。審査に進む前の段階で線が引かれています。
法務省は、引き取ることができない土地として次の5つを挙げています(法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」)。
つまずきやすいのは、1つ目と5つ目です。古い納屋や物置が建ったままの土地は、そのままでは申請できません。境界についても、お隣との認識が違っていたり、境界標が見当たらなかったりする土地は少なくありません。自宅の前の私道を分け合って持っている場合も、道路として利用されている土地に当たります。
私がお受けしたご相談でも、郊外に残されたご両親名義の土地について、登記簿の面積と現地の広さが合わず、まず土地家屋調査士に測量を相談するところから始めた例がありました。境界をはっきりさせておくことは、将来売却するときにも、お子さんの代に引き継ぐときにも役に立ちます。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
申請を受け付けてもらえても、審査の段階で承認されないことがあります。一定の崖がある土地、地上や地下に物が残っている土地、隣の方と争わなければ使えない土地、通常の管理や処分に過分な費用や労力がかかる土地です。
法務省が挙げているのは、次の5つです(同前)。
山林をお持ちの方は、最後の項目を気にされます。長く手入れをしていない山がそれだけで対象外になるわけではありませんが、国が追加で整備しなければならない状態かどうかが問われます。庭木や物置、古い井戸といった残りものも、片付けが前提になります。
費用は2段階に分かれます。申請のときに納める審査手数料は土地1筆あたり14,000円で、収入印紙で納めます。そして承認を受けたあとに、管理費用にあたる負担金を納めることになります。
注意していただきたいのは、審査手数料が戻らないことです。法務省のQ&Aは、却下または不承認になった場合について、はっきりと「返還されません」と答えています。申請の前に土地の状態を確かめておくことに意味があるのは、このためです。
負担金は、国がその土地を管理する10年分の標準的な費用を考慮して算定される額で、納めるのは一度だけです。法務省のQ&Aは「20万円が基本となります」としたうえで、土地の種目や所在地によっては面積に応じて算定される場合があると説明しています。※負担金の額は土地の状況により異なります。
納付には期限があります。負担金の通知が到達した日の翌日から30日以内に納めることとされており、期限内に納付されない場合は承認が効力を失います。逆にいえば、納付した時点で土地の所有権が国に移ります。なお、当事務所にご依頼いただく場合の費用は、ホームページの料金ページでご案内しています。
承認申請書を提出すると、法務局が書面を確認し、必要に応じて現地を調べたうえで結論を出します。標準処理期間は8か月とされています。承認の通知を受けて負担金を納めた時点で、土地の所有権が国に移ります。
法務省のQ&Aは「標準処理期間は8か月とされていますが、事案によっては標準処理期間を超える場合もあります」としています。名古屋法務局も同じ8か月を示しています。思い立ってすぐに片づく手続きではありません。
この期間を短くする近道はありませんけれども、遠回りを避ける方法はあります。事前相談です。法務局は相続土地国庫帰属相談票とチェックシートの様式を用意していて、相談のときには登記事項証明書、地図の写し、土地の写真、固定資産税納税通知書などを持参するよう案内しています。電話やウェブの場合は、これらの資料をあらかじめ送ることが求められています。
愛知県内の土地については、名古屋法務局の不動産登記部門に置かれた相続土地国庫帰属審査室が、相談と申請の窓口になります。相談は予約制で、面談のほか電話やウェブでも受け付けられています。
名古屋法務局は名古屋市中区三の丸の名古屋合同庁舎第1号館にあり、審査室は6階です。受付時間は「10時~12時、13時30分~16時」で、土日祝日と年末年始は除かれます。予約は法務局手続案内予約サービスか電話で受け付けられています。法務省は令和6年10月15日からウェブによる対応も始めたと案内していますので、平日に足を運びにくい方はご検討ください。
土地が遠方にある場合でも、お近くの本局で相談できるとされています。名古屋にお住まいで岐阜や県外に土地をお持ちの方は、まず名古屋法務局で相談し、申請は土地のある県の本局へ、という進め方ができます。
毎年4月から5月に固定資産税の納税通知書が届くころになりますと、課税明細の見覚えのない土地についてご相談に見える方が増えます。春に気づいて夏に現地を確かめ、秋にご相談という流れは、標準処理期間を踏まえますと無理のないペースだろうと思います。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 建物が建ったままの土地 | 解体したうえで申請するか、売却など別の道も含めて検討します |
| 隣地との境がはっきりしない | 測量や境界の確認を先に済ませてから申請を考えます |
| 兄弟で共有している土地 | 共有者全員で一緒に申請しますので、話し合いから始めます |
| 田や畑、山林 | 申請はできますが、管理の状態や負担金の算定を確かめます |
| 名義が亡くなった方のまま | 相続登記の申請義務がありますので、あわせてご相談ください |
| 土地も借金も引き継ぎたくない | 3か月以内であれば相続放棄という方法も選択肢になります |
表2 ご状況ごとに考えられる進め方(法務省・裁判所の各資料、2026年9月28日確認)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
ご相談の中でとくに多いのが、建物と農地、そして費用についてのお尋ねです。法務省の資料で確かめられる範囲でお答えします。判断に迷われるときは、申請の前に法務局の相談をご利用ください。
建物がある土地は却下の対象ですので、解体して更地にすれば、その点は要件を満たすことになります。ただし、ほかの却下事由や不承認事由に当たらないことが前提です。解体を決める前に土地全体の状態をお確かめください。
法務省のQ&Aは、農地についても承認申請をすることができるとしています。地目によって一律に対象から外されるわけではありません。ただし森林については、造林や間伐が行われておらず国による整備が必要な場合は不承認事由に挙げられています。
返ってきません。法務省のQ&Aは、却下または不承認となった場合の審査手数料について「返還されません」と明示しています。土地1筆あたり14,000円ですので、複数の筆を申請する場合はその分がかかります。
相談は可能です。相続登記が承認申請の要件かどうかは法務省の公表資料から確認できませんでしたので、断定を避けます。ただ、相続登記そのものが令和6年4月1日から義務になっており、不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することとされています。
相続土地国庫帰属制度は、使い道のない土地を手放すための現実的な選択肢です。ただ、申請すれば引き取ってもらえる制度ではありません。
建物が残っていないか、境界が定まっているか、地上や地下に片付けるべきものがないか。この3つを確かめるだけでも、見通しはずいぶん変わります。
費用は審査手数料が土地1筆あたり14,000円、承認されたあとに負担金がかかります。まずは名古屋法務局の相続土地国庫帰属審査室に事前相談の予約を入れ、登記事項証明書と固定資産税納税通知書、土地の写真を用意するところからお始めください。名義が亡くなった方のままの土地であれば、相続登記の手続きも並行して進めることになります。
この記事は 2026年9月28日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・家庭裁判所等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年9月28日
使っていない土地のことでお困りでしたら、まずはお気軽にご相談ください。名古屋のやさしい相続相談室(司法書士法人白壁事務所(しらかべ))が、お話をうかがいます。