
遺産分割の話し合いがまとまらないときでも、相続登記の申請期限は進んでいきます。押さえていただきたいのは、話がつかないままでも登記の義務を果たす方法があること、そして司法書士がどこまでお手伝いできるのかという線引きです。
名古屋市東区の事務所でご相談をお受けしていると、お盆や年末年始の帰省のあとに、兄弟で話をしたけれどまとまらなかった、とお越しになる方がいらっしゃいます。分け方の希望が食い違う、一人だけ連絡がつかない、実家をどうするかで止まる、といったご事情です。共通しているのは、放っておいてよいのだろうかというご不安です。話し合いが止まっているあいだに何が進むのか、どこへ相談すればよいのかを整理します。
遺産分割がまとまらなくても、相続登記の申請義務は止まりません。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内という期限は動かず、話し合いが続いていること自体は、期限を延ばす理由にはなりません。
法務省「相続登記の申請義務化について」は、相続により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることが義務付けられました、としています。令和6年(2024年)4月1日に施行された不動産登記法第76条の2第1項の定めで、正当な理由がないのに申請を怠ったときは10万円以下の過料の適用対象となります。
施行日より前に起きた相続も対象です。名義がそのままになっている不動産については、令和9年(2027年)3月31日までが期限とされています。令和8年9月の時点で、残りはおよそ1年半です。過料は期限を過ぎたとたんに科されるものではなく、登記官の催告を経て裁判所が判断する順序になっています(法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。
司法書士は登記の代理と、裁判所に提出する書類の作成を行えます。いっぽうで、相続人のどなたか一方の代理人として他の相続人と交渉することはできず、家庭裁判所の遺産分割調停を代理することもできません。
法務省「司法書士の業務」は、司法書士の仕事として、登記または供託に関する手続の代理、裁判所・検察庁・法務局に提出する書類の作成、そして法務大臣の認定を受けた司法書士による簡裁訴訟代理等関係業務を挙げています。
このうち代理ができる裁判手続きは、簡易裁判所において取り扱うことができる民事事件のうち、訴訟の目的となる物の価額が140万円を超えない請求事件に限られます(法務省「司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務の認定」)。遺産分割の調停は家庭裁判所の手続きですので、代理人として同席することはできません。代理人を立てて進めたいときは、弁護士にご相談いただくことになります。
いっぽうで、調停の申立書をはじめとする裁判所提出書類の作成は、司法書士の業務です。相続人の範囲を戸籍で確定させ、不動産や預貯金の資料を整える部分は、争いの有無にかかわらずお手伝いできます。調停や審判が終わったあとの相続登記も同じです。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| 分け方は一致、書類が未了 | 遺産分割協議書を作成し相続登記へ進みます |
| 連絡が取れない相続人がいる | 戸籍の附票で居所を調べます |
| 調査しても所在が分からない | 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます |
| 判断が難しい相続人がいる | 家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てます |
| 分け方そのものに争いがある | 家庭裁判所の調停へ。代理人は弁護士に依頼します |
| 3年の期限が迫っている | 相続人申告登記で申請義務を果たします |
表1 話し合いが進まないときの状態と、考えられる進め方(法務省「相続人申告登記手続のご案内」、法務局・東京ブロック管内法務局「相続登記ガイドブック(詳細編)Q&A編」をもとに作成)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
話し合いに時間がかかりそうなときは、相続人申告登記で登記の申請義務を果たせます。自分が相続人であることを法務局に申し出る手続きで、相続人の一人が単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。
法務省の「相続人申告登記手続のご案内」(令和8年3月版)は、この制度を使う場面として、遺産分割がまとまりそうにない(争いがある)場合や、相続人が非常に多いために戸籍関係書類の収集に時間を要する場合などを挙げています。
気をつけたいのは、効き目の範囲です。「相続登記の申請義務化に関するQ&A」は、相続人申告登記は、申出をした相続人についてのみ、相続登記の義務を履行したものとみなされます、としています。お一人が申し出ても、他のご兄弟の義務までは果たされません。
もう一点、これは権利関係を公示するものではありません。相続した不動産を売る場面などでは、別途、相続登記をすることになります。期限をしのぐための手当てだとお考えください。
遺産分割を待たずに、法定相続分どおりの共有として相続登記をしておく方法もあります。この登記は相続人の一人が全員のために単独で申請でき、名義そのものを動かす点で相続人申告登記とは性格が違います。
法務局・東京ブロック管内法務局の「相続登記ガイドブック(詳細編)Q&A編」は、共同相続人の1人は、その全員のために、単独で共同相続の登記を申請することができます、としています。他の相続人の実印や印鑑証明書を集めなくても申請できるのが、この登記の特徴です。
ただし、法務局の「登記申請書の記載例(相続・法定相続)」には、申請人にならなかった相続人には登記識別情報が通知されない旨の注記があります。いわゆる権利証にあたる情報が一部の相続人に渡らないため、その後の手続きで手間が増えることがあります。共有のままでは、売却や建て替えに全員の関与が要ります。
相続人だけで合意できないときは、家庭裁判所の遺産分割調停を利用できます。調停委員会が双方から事情を聴いて話し合いを進める手続きで、成立しなければ審判に移り、裁判官が一切の事情を考慮して判断することになります。
裁判所の案内によれば、被相続人が亡くなり、その遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができます。調停が成立しなかったときは、自動的に審判手続が開始されます(裁判所「遺産分割調停」)。
申立てができるのは共同相続人、包括受遺者、相続分譲受人です。申立先は相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所とされ、費用は被相続人1人につき収入印紙1200円分と連絡用の郵便切手です。
名古屋家庭裁判所は、調停を、調停委員会が中立公正な立場で双方の言い分を平等に聞き、話し合いで円満に解決できるよう斡旋する手続、と説明しています。公開の法廷で争うものではありません。同裁判所は、身分関係の資料として登記官の認証文付きの法定相続情報一覧図の提出を勧めています(名古屋家庭裁判所「遺産分割調停」)。
連絡が取れない相続人がいても、その方を外して遺産分割協議を進めることはできません。戸籍の附票で居所をたどるのが最初の手順で、調査しても所在が分からないときは、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。
東京ブロックのガイドブックは、相続人が行方不明の場合について、行方不明というだけで相続人にならないわけではありません、としたうえで、三つの方法を挙げています。戸籍の附票などで居所を捜す方法、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行い、選任された管理人を代理人とする方法、そして生死が分からないときの失踪宣告です。
相続人に認知症などで判断が難しい方がいる場合は、家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをしたうえで、選ばれた後見人が協議に参加します。未成年のお子さんと親権者がともに相続人になる場合は、特別代理人の選任が要ります。ご事情によっては弁護士へのご相談が適しています。
私が担当した事案でも、連絡が取れないとおっしゃっていた相続人の方が、戸籍の附票をたどったら隣の市にお住まいだった、ということがありました。年賀状のやりとりが途絶えていただけで、お手紙を差し上げたら数日で返事が届きました。連絡が取れないと感じておられる状態のうち、いくらかは所在が分からないのではなく、切り出しにくいだけという場合があります。
※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
相続開始から10年が過ぎると、遺産分割は原則として法定相続分によることになります。生前に多くの援助を受けていた、介護に尽くしたといった事情を分け方に反映させることが、原則としてできなくなります。
法務省の改正概要資料は、相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による、としています。令和5年(2023年)4月1日に施行された民法の定めです。例外は、10年経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときなど、二つの場合に限られています。
話し合いが長引いたまま10年が近づいているときは、家庭裁判所への遺産分割請求という手を打つかどうかが分かれ目になります。ご両親が亡くなられてから何年になるかを、まず数えてみてください。
| 期間 | 期間内にすること・過ぎたときの扱い |
|---|---|
| 取得を知った日から3年以内 | 相続登記の申請。難しいときは相続人申告登記 |
| 遺産分割が成立した日から3年以内 | その内容に沿った所有権移転の登記 |
| 令和9年3月31日まで | 施行日前に起きた相続についての登記の期限 |
| 相続開始から10年 | 経過後は原則として法定相続分によります |
表2 遺産分割が長引くときに関わる期限(3年の期限は令和6年4月1日施行の不動産登記法第76条の2、10年の区切りは令和5年4月1日施行の民法の定め。法務省の各案内による)。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
話し合いがまとまらないときのご質問で多いのは、期限の扱い、司法書士がどこまで関われるか、法定相続分で登記した場合の影響の三つです。順にお答えします。
相続人申告登記で申請義務を果たす方法があります。相続人の一人が単独で申し出ることができ、登録免許税もかかりません。義務を果たしたものとみなされるのは申し出た方についてですので、ご兄弟それぞれが申し出るか、どなたかが代理でまとめて申し出るかを決めておかれるとよいと思います。
どなたか一方の代理人として他の相続人と交渉することはできません。相続人の範囲を戸籍で確定させ、不動産の内容を登記事項証明書で確かめ、全員に同じ情報が行き渡るように資料を整えるところまではお手伝いできます。分け方そのものに争いがある場合は、弁護士にご相談ください。
変えられなくなるわけではありません。あとで遺産分割がまとまれば、その内容に沿った登記を改めて申請することになります。ただし登記の手間と費用がもう一度かかりますので、話し合いの見通しを踏まえてお選びください。
話し合いが止まっているあいだも、相続登記の3年、遺産分割の10年という時間は進みます。まとまらないなら相続人申告登記などで期限を確保し、争いの中身に応じて司法書士と弁護士を使い分けるのが、現実的な進め方です。
動かせるものと動かせないものを分けて考えると、次の一手が見えてきます。分け方の合意は相続人にしか決められませんが、戸籍をそろえる、不動産の内容を確かめる、期限を確保するといった作業は、合意を待たずに進められます。実家が春日井、土地は岐阜といった場合も、申請先はその不動産を管轄する法務局ですので、名古屋市東区白壁の事務所で手配します。どこから手をつけるか迷われたときは、まずはお気軽にご相談ください。
この記事は 2026年9月21日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・裁判所等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年9月21日
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