
遺産分割協議書に決まった用紙はありませんが、書き漏らすと相続登記の添付書類として使えなくなる項目があります。被相続人の氏名と亡くなった日、相続人が分け方に合意したこと、財産の具体的な内容、相続人全員の氏名と住所、そして全員の実印です。当事務所にも、ご自身で下書きを作ってから「これで足りているか見てほしい」とお持ちになる方がいらっしゃいます。法務局の記載例と相続登記ガイドブックのQ&Aをもとに、書き方の要点と、よく直すことになる箇所を整理します。
相続人全員で話し合って決めた遺産の分け方を、書面にして残したものです。相続登記や預貯金の払戻しの場面で、その分け方が相続人全員の合意によるものだと示すために使います。
被相続人が亡くなると、遺産はいったん相続人全員の共有になります。誰がどの財産を引き継ぐのかを決めるのが遺産分割の協議で、その結果を書き留めたものが遺産分割協議書です。法務局の案内では、戸籍を集めた次の段階として「相続人の間で、被相続人(亡くなった方)の財産をどのように分けるかを協議・話し合い(遺産の分割)を行い、遺産分割協議書として書面を作成します」と説明されています(法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和8年4月)。
被相続人の氏名と死亡した日、相続人が分け方に合意したこと、相続財産の具体的な内容、相続人全員の氏名と住所を書き、全員が実印を押します。この5つがそろっていないと、登記の添付書類としては使えません。
東京ブロック管内法務局・地方法務局「相続登記ガイドブック(詳細編)」のQ76が、この5つを挙げています。
| 順番 | 遺産分割協議書に入れる内容 |
|---|---|
| 1 | 被相続人の氏名と死亡した日 |
| 2 | 相続人全員が分け方に合意したこと |
| 3 | 相続財産の具体的な内容 |
| 4 | 相続人全員の氏名と住所 |
| 5 | 相続人全員の実印 |
表1 遺産分割協議書に入れる5つの記載事項(東京ブロック管内法務局・地方法務局「相続登記ガイドブック(詳細編)」Q76)。印鑑証明書は各1通を添えます。
法務局が公開している記載例では、本文は「令和7年6月20日、○○市○○町○番地 法務太郎の死亡によって開始した相続の共同相続人である法務花子、法務一郎及び法務温子は、本日、その相続財産について、次のとおり遺産分割の協議を行った。相続財産のうち、下記の不動産は、法務一郎が単独で相続する」という運びになっています(法務局「登記申請書の記載例(相続・遺産分割)」令和7年7月)。
固定資産税の納税通知書を見ながら書くと、登記簿上の表示と食い違うことがあります。登記事項証明書を取り寄せて、所在・地番・地目・地積をそのとおりに写します。
相続登記ガイドブックのQ48は、登記申請書に記載する不動産の表示について「登記事項証明書を取得して、登記上の不動産の表示を確認して記載してください」と答えています。遺産分割協議書も、登記所に出す書面ですので同じ考え方です。土地であれば所在・地番・地目・地積を、建物であれば所在・家屋番号・種類・構造・床面積を、記載例のとおりに項目名を添えて書き写します。
私道の持分が抜けているご相談は、当事務所でも毎年お受けします。納税通知書には非課税の私道が載らないことがあり、そのまま協議書を作ると、家の前の道路の持分だけが宙に浮いて残ります。何年か経って売却しようとした段になって気づき、当時の相続人を集め直すことになった方もいらっしゃいました。名寄帳と登記事項証明書で、被相続人名義の不動産を洗い出してから書き始めると、こうした抜けを防ぎやすくなります。
※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
相続人全員が印鑑証明書と同じ印、つまり実印を押します。印鑑証明書は各1通を添付し、作成から3か月以内といった期限はありません。用紙が複数枚になるときは、全員の実印で契印します。
法務局の案内は「遺産分割協議書には、相続人全員が印鑑証明書と同じ印(実印)を押し、その印鑑証明書を各1通添付します」と述べ、その印鑑証明書について「作成後3か月以内のもの といった制約はありません」と注記しています(法務局「登記申請手続のご案内(相続登記①/遺産分割協議編)」令和8年4月)。金融機関の手続きで3か月以内を求められる場面があるため、登記でも同じだと思われている方は少なくありません。同じ内容は相続登記ガイドブックのQ88でも「有効期限はありません」と確認できます。
用紙が2枚以上になったときの扱いも、ガイドブックのQ79が答えています。「遺産分割協議書の全ページにわたり、全員の押印した印鑑による契印が必要です」という取扱いですので、末尾の署名押印だけで済ませず、ページのつなぎ目にも全員の実印を押していただくことになります。相続人が5人いれば、契印もページごとに5か所です。
未成年のお子さんが親権者と一緒に相続人になる場合は特別代理人を、判断能力が十分でない方がいる場合は成年後見人を、それぞれ家庭裁判所に選任してもらってから協議します。海外にお住まいの方は、印鑑証明書の代わりになる証明書を使います。
相続登記ガイドブックのQ87は、相続人に未成年者がいる場合について「親権者が未成年者と利益相反関係に当たるなどの場合、家庭裁判所に未成年者の特別代理人選任の申立手続を行い、特別代理人が遺産分割協議に参加することが必要です」と答えています。お母さまとお子さんが同じ相続の相続人になる場面では、お母さまがお子さんを代理できません。
相続人のお一人が認知症などで判断能力が十分でない場合は、Q16が「家庭裁判所に成年後見人選任の申立てをする必要があります」と答えています。ご家族だけで話を進めることはできませんので、家庭裁判所への申立てから始めることになります。
お子さんが転勤や結婚で海外にお住まいという名古屋のご家庭も、珍しくなくなりました。その場合は印鑑証明書を取ることができませんので、Q89の「印鑑証明書の代わりに、本人の署名に相違ないことの所在地の日本領事館等の発給した証明書等でもよいとされています」という取扱いによります。領事館まで出向いていただく必要がありますので、一時帰国に合わせて日本で手続きを済ませるほうが早い場合もあります。
相続人が一人でも欠けた協議は無効になります。不動産を書き漏らしたときは、同じ協議書をもう一度使える場合がありますので、作り直す前に確かめていただくとよいところです。
最も影響が大きいのは、参加する人の範囲を取り違えることです。相続登記ガイドブックのQ77は「相続権のある者全員が参加する必要があります。そのため、一部の者が参加しなかった協議は無効です」と答えています。前のご結婚のお子さんや、すでに亡くなった兄弟姉妹のお子さんが含まれる場合、ご家族の実感とは違う顔ぶれになります。戸籍を集めてから話し合いを始めていただくのは、この食い違いを避けるためです。
もっとも、書き漏らしのすべてが作り直しになるわけでもありません。Q80は、協議書に書いてある不動産の一部が登記申請から漏れていた場合について「同じ遺産分割協議書(印鑑証明書付き)を再度添付することで差し支えありません」と答えています。相続人の皆さまに集まり直していただく前に、まず協議書の記載を見返していただければと思います。
遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容に沿った相続登記を申請する義務があります。また相続が始まってから10年を過ぎると、分け方の基準が法定相続分に切り替わります。
相続登記の申請義務化は令和6年4月1日に施行されました。法務省は「遺産分割が成立した日から3年以内にその内容を踏まえた所有権の移転の登記を申請することが義務付けられました」と説明しており、正当な理由がないまま怠ると「10万円以下の過料の適用対象となることとされました」としています(法務省「相続登記の申請義務化について」)。施行日より前に始まっていた相続にも、令和9年3月31日までという期限が示されています。
| 期間 | 期間内にすること・過ぎたときの扱い |
|---|---|
| 遺産分割が成立した日から3年以内 | その内容に沿った相続登記を申請します(令和6年4月1日施行) |
| 相続の開始から10年 | 過ぎると分け方の基準が法定相続分になります(令和5年4月1日施行) |
表2 協議書づくりに関わる2つの期間です。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります。
もう一つ、話し合いそのものに関わる期間があります。法務省の改正資料は「相続開始(被相続人の死亡)時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分(又は指定相続分)による」としています。生前に多額の援助を受けた相続人がいる、長年介護を担った相続人がいる、といった事情を分け方に反映させたいとお考えであれば、10年という区切りを頭の片隅に置いておいていただくとよいところです。例外として、10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割請求をしたときなどが挙げられています(法務省「民法等の一部を改正する法律の概要」・令和5年4月1日施行)。
もう一点、令和8年10月5日以降に相続登記を申請する場合の様式が、すでに法務局のサイトに置かれています。新しい記載例では、申請人となる相続人について「氏名ふりがな、生年月日、国籍及びメールアドレスも記載してください」とされ、申請書に「国籍等」の欄が加わりました。遺産分割協議書そのものの書き方に変更は見当たりませんが、協議がまとまってから申請までに日が空く場合は、この時期をまたぎます。
当事務所でよくお受けするご質問を3つ挙げます。いずれも法務局の案内と相続登記ガイドブックのQ&Aで示されている取扱いに沿ってお答えします。
法務局が記載例を公開していますので、それに沿って作っていただければ、相続登記の添付書類として使えます。手書きでもパソコンでも差し支えありません。
相続登記については、相続登記ガイドブックのQ88が「有効期限はありません」と答えています。以前に取ったものが手元にあれば、そのまま使える場合があります。ただし、金融機関など他の提出先が独自に期限を設けていることはありますので、提出先ごとにご確認ください。
Q90のとおり、原本とともに写しを提出して原本還付を請求すれば、原本の返却を受けられます。複数の手続きで同じ書類を使う予定があるときは、この請求をしておくと動きやすくなります。
遺産分割協議書でつまずく箇所は、文章の巧拙ではなく、参加する人の範囲と不動産の表示に集中しています。戸籍で相続人を、登記事項証明書で不動産を確定させておけば、本文そのものは記載例をなぞるだけで形になります。
秋が深まると、年末年始の帰省に合わせて話し合いの場を持ちたいというご相談が増えてきます。本籍地が遠方にあると戸籍をそろえるだけでひと月ほどかかることもありますので、いまから手をつけていただくと当日に間に合います。名古屋市東区・白壁の当事務所では、愛知・岐阜にお住まいの方からのご相談をお受けしています。書き上げた協議書の確認だけでも構いませんので、判断に迷われたときはお気軽にご相談ください。
この記事は 2026年9月19日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・税務署等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年9月19日
相続の手続きについてのご相談を、初回60分無料でお受けしています。まずはお気軽にお問い合わせください。