
戸籍の束を銀行に出して返してもらい、次の銀行にまた出す。この繰り返しをしなくて済むようにする仕組みが、法務局の法定相続情報証明制度です。相続人の関係を一覧にした図を法務局に認証してもらうと、その写しを無料で必要な通数だけ受け取れます。相続登記はもちろん、預貯金の払戻しや相続税の申告にも使えますので、手続き先が多いご家庭ほど効きます。ただし、相続放棄や遺産分割の結果は一覧図に表れませんし、使えない場合もあります。どこで役に立ち、どこで役に立たないのかを、順にご説明します。
相続人が戸籍の束と相続関係を一覧にした図を法務局に提出し、登記官が内容を確認したうえで、その図に認証文を付した写しを無料で交付する制度です(法務局「『法定相続情報証明制度』について」)。
法務局は制度の趣旨を、相続人から相続関係を一覧に表した図とともに戸除籍謄本等の束を登記所に提出してもらい、その一覧図に認証文を付した写しを無料で交付するもの、と説明しています。認証文が付いた写しは、法務局が戸籍を確認したうえで「この方々が法定相続人です」と証明した書面です。提出先はその写しで相続人の範囲を把握できます。
ここで言う一覧図は、被相続人と、戸籍の記載から判明する相続人を一覧にした図を指します。ご自身で作成して提出する書類ですので、家系図のような体裁で、被相続人の最後の住所と生年月日・死亡年月日、相続人の氏名・生年月日・続柄を書き込んでいきます。書式は法務局のサイトで公開されていますから、当てはまるものを選んで使うと迷いが少なくなります。
費用は、本制度は無料でご利用いただけます、とリーフレットに明記されています(法務局「〜法定相続情報証明制度について〜」令和8年3月1日改訂)。ただし、戸籍の取得にかかる手数料や郵送料は別途かかります。
法務局は、相続登記の申請手続のほか、被相続人名義の預金の払戻し手続、相続税の申告、被相続人の死亡に起因する年金等手続など、さまざまなものがあると案内しています(法務局「『法定相続情報証明制度』について」)。
年金の関係は、後から範囲が広がった部分です。令和2年(2020年)10月26日から、遺族年金、未支給年金、死亡一時金等の請求にあたって、身分関係を証する書面として一覧図の写しを使えるようになりました(法務局「法定相続情報証明制度の利用範囲の拡大について」)。
戸籍の束は1組しかありませんから、この制度を使わない場合は、銀行に出して返してもらい、次の窓口へ回すという順番待ちになります。一覧図の写しなら必要な通数の交付を受けられますので、複数の窓口へ同時に出せます。相続人が多いご家庭や、口座が複数の金融機関に散らばっているご家庭ほど、差が出ます。
不動産登記については、さらに一歩進んだ取扱いがあります。令和6年(2024年)4月1日以降、登記申請書の添付情報欄に法定相続情報番号を記載すれば、一覧図の写しの添付そのものを省略できるようになりました(法務局「法定相続情報番号の提供による相続登記等における添付情報の省略について」)。ただしこの番号が使えるのは不動産登記の申請等の手続のみで、金融機関や年金の窓口では使えません。
申出ができるのは被相続人の相続人、またはその相続人です。申出先は被相続人の本籍地、最後の住所地、申出人の住所地、被相続人名義の不動産の所在地を管轄する登記所のいずれかから選べます(法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」)。
申出人の住所地でも構わないという点は、実際にはありがたい決まりです。名古屋市東区にお住まいの方が、岐阜のご実家の不動産と愛知の預貯金をまとめて整理する場合でも、お住まいの地域を管轄する法務局で申し出ができます。
ご自身で出向く時間が取りにくいときは、代理人に依頼できます。委任による代理人になれるのは、申出人の親族のほか、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士です。申出も一覧図の写しの交付も、登記所の窓口に出向くほか、郵送によることも可能とされています。
どの場合にも用意するのは、被相続人の出生から亡くなるまでの連続した戸籍と住民票の除票、相続人の戸籍謄抄本、申出人の身分証明書です。一覧図に相続人の住所を書く場合などは、書類が追加になります(法務局のリーフレット令和8年3月1日改訂)。
| 書類 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 被相続人の戸除籍謄本 | 被相続人の本籍地の市区町村 | 出生から亡くなられるまでの連続したもの |
| 被相続人の住民票の除票 | 被相続人の最後の住所地の市区町村 | 廃棄されている場合は戸籍の附票で代える |
| 相続人の戸籍謄抄本 | 各相続人の本籍地の市区町村 | 被相続人が死亡した日以後の証明日のもの |
| 申出人の身分証明書 | ― | 運転免許証の表裏両面のコピーなど |
| 相続人の住民票記載事項証明書 | 各相続人の住所地の市区町村 | 一覧図に相続人の住所を記載する場合 |
| 委任状など | ― | 委任による代理人が申出をする場合 |
相続人の戸籍謄抄本については、被相続人が死亡した日以後の証明日のものが必要です、と案内されています。亡くなる前に取った戸籍が手元にあっても、それでは足りないことになりますので、取り直しの手間を見込んでおいてください。
申出人の身分証明書として案内されているのは、運転免許証の表裏両面のコピー、マイナンバーカードの表面のコピー、住民票記載事項証明書などです。なお、申出人の氏名・住所を確認することができる公的書類は、登記所から返却されません。
必要となる場合がある書類としては、一覧図に相続人の住所を記載するときの住民票記載事項証明書(印鑑証明書や戸籍の附票でも代用できます)、委任による代理人が手続きをするときの委任状、そして被相続人の住民票の除票が廃棄されている場合に代わりとして用意する戸籍の附票が挙げられています。古い相続では、この附票が出番になることがあります。
相続放棄をした人も一覧図には記載します。遺産分割の結果も反映されません。相続税の申告に使うのであれば、子の続柄を実子か養子か分かるように書いておく必要があります。
法務局は、相続放棄や遺産分割協議の結果によって実際には相続人とならない方がいる場合も、法定相続情報一覧図にはその方の氏名等が記載されます、と明記しています。一覧図はあくまで戸籍から分かる法定相続人を示すもので、誰が何を取得したかを示す書面ではありません。遺産分割協議書は別に用意することになります。
続柄の書き方も落とし穴です。国税庁の案内では、相続税の申告に添付できるのは、図形式の法定相続情報一覧図の写し(子の続柄が実子又は養子のいずれであるかが分かるように記載されたものに限ります。)とされています(国税庁「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」令和8年7月)。つまり、長男・長女・養子といった書き方であれば使えますが、まとめて「子」と書いた一覧図は、相続税の申告では受け付けてもらえません。相続税の申告が見込まれるご家庭では、最初から続柄を書き分けておくほうが安全です。
相続人の住所を書くかどうかも、選択できる部分です。書いておくと、相続登記等の申請で一覧図の写しを提供する際に、相続人の住所を証する情報を別に提供しなくても差し支えないとされています。住所を書けば住民票記載事項証明書などの提出が必要になりますが、後の手続きが軽くなる場面もありますので、手続き先の顔ぶれを見て決めてください。
被相続人や相続人が日本国籍を有しないなど、戸除籍謄抄本を提出することができない場合は、本制度を利用することができません。また、一覧図は5年間保管され、その間は再交付を受けられます。
保存期間は申出日の翌年から起算して5年間です。この期間内であれば、一覧図の写しを再交付してもらえますので、後から手続き先が増えたときにも対応できます。逆に言えば、5年を過ぎると作り直しになります。法定相続情報番号についても、保管の申出から5年以上が経過している場合は使えない可能性がある、と案内されています。
もうひとつ、法定相続人として記載されている方にさらに相続が発生している場合などには、別途これらの事項を証する書面の添付等が必要となることがある、とされています。一覧図を作ったときの相続関係と、実際に使う時点の相続関係がずれていないか、確かめてから窓口に持参してください。
申出は窓口でも郵送でもできます。戸籍が複数の市区町村にまたがるご家庭では、戸籍を集める段階から日数を見込んでおくと、その後の金融機関の手続きが滞りません。
私がお手伝いした案件に、相続人が10名近くにのぼり、預貯金の口座が5つの金融機関に分かれていたご相続がありました。ご家族は最初、戸籍の束をそのまま順番に回そうとお考えでしたが、それでは1件ごとに返却を待って次へ回すことになります。一覧図の写しを必要な通数だけ交付してもらい、同じ日にすべての金融機関へ発送したところ、ひと月ほどで払戻しの目処が立ちました。手続きの中身が変わったわけではなく、並べ方を変えただけです。
※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
お盆やお彼岸にご家族が集まったあと、秋になってから相談にお見えになる方が多いのも、この時期の特徴です。名古屋市東区や春日井、岐阜のご実家と愛知の預貯金が離れているご家庭でも、一覧図を1枚作っておけば、そこから先の窓口が一本の流れになります。年内に片づけたいとお考えでしたら、秋のうちに着手されるとゆとりが持てます。
窓口でよくお尋ねいただく点をまとめました。個別の事情によって扱いが変わることもありますので、判断に迷うときは手続き先にもご確認ください。
法務局は無料で必要な通数を交付すると案内しています。手続き先の数を数えて、少し余裕をもった通数で申し出ておくと、追加の申出をしなくて済みます。
外せません。法務局は、相続放棄をした相続人がいる場合も、一覧図には氏名、生年月日及び続柄を記載してくださいと案内しています。放棄の事実は、家庭裁判所が発行する書面で別に示すことになります。
なりません。一覧図は相続人が誰であるかを証明する書面で、不動産の名義を変えるものではありません。相続登記の申請は別に必要です。相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務がありますので、あわせて進めてください(法務省「相続登記の申請義務化について」)。
一覧図の写しを1枚作っておくと、相続登記、預貯金の払戻し、相続税の申告、年金の手続きが同じ書面で進みます。相続放棄や遺産分割の結果が表れないこと、相続税の申告では続柄の書き分けが要ること、5年で保管期間が終わること。
この3つを頭の隅に置いていただければ、使いどころを間違えることはまずありません。
戸籍を集める段階でつまずいた、一覧図を作ってみたが書き方に自信がない、というご相談も承っています。まずはお気軽にご相談ください。
この記事は 2026年9月11日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは法務局・税務署等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。
相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年9月11日