
秋のお彼岸が過ぎ、名古屋市東区の当事務所でも、年末年始にご家族が集まる前に遺言書を整えておきたいというご相談が増えてきました。財産の分け方は決まっているのに最後まで迷われるのが、お墓と仏壇を誰に継いでもらうかという一点です。
お墓や仏壇は、預貯金や不動産とは別の扱いになります。相続人全員で分け方を決める遺産分割の対象ではなく、引き継ぐ人をご本人が遺言書で指定しておけるものです。何をどう書けばよいのか、指定がないときはどうなるのか、名古屋市の墓地では何が続くのかを順に見ていきます。
お墓や仏壇、位牌などの祭祀財産は、相続人全員で分ける遺産分割の対象になりません。地域や家の慣習に従い、先祖の祭祀を主宰すべき人が引き継ぐものとされています。
岡山家庭裁判所の「遺産分割手続Q&A」は、問題になる財産に「祭祀財産(祭具・墓など)」を挙げ、「相続とは別の基準(慣習等)で承継されるものであり,遺産分割の対象にはなりません。」と説明しています。遺産分割協議書に書く財産とは道筋が違いますので、お墓を継ぐ方がそのぶん預貯金を多く受け取れるわけでもありません。
祭祀財産とは、系譜と祭具、墳墓を指します。家系図や位牌、仏壇、仏具、墓石や墓地の使用権などが含まれます。日常の礼拝に使われているものが対象で、投資や商品として持つものは別の扱いです。
国税庁の「No.4108 相続税がかからない財産」は、その一つとして「墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物」を挙げています。同じ案内には、骨とう的な価値があって投資の対象となるものは相続税がかかるという注意書きも添えられています。
気をつけたいのは、引き継ぐのが土地の所有権ではなく、多くの場合は墓地を使う権利だという点です。寺院墓地や市営の霊園では、区画の所有者は寺院や自治体で、使用者としての立場を引き継ぎます。登記簿に名義が載るものではありませんので、お手元の墓地使用許可証を探しておいていただくほうが早く進みます。
遺言書の中で祭祀承継者を指定しておけば、お墓や仏壇を引き継ぐ人をご本人の意思で決めておけます。どなたを指定するのかが分かるように、氏名と生年月日まで書いておきます。
函館地方法務局の「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」には「⑥長男に墓や仏壇を継がせる(祭祀承継者を指定する)場合」という項目があり、文例として「1 遺言者は、函館家の祭祀承継者を長男函館一雄(昭和○○年○○月○○日生)に指定する。」が載っています。一文で足ります。
指定できる方は、お子さんに限られません。配偶者でも、お孫さんでも、相続人以外の方でもかまいません。遠方のご長男ではなく、近くにお住まいのご次男やお嬢さんを指定なさる例もよくあります。お墓の管理はお住まいの場所と無縁ではありませんので、誰が通いやすいかで決めていただくほうが続きます。
財産の分け方を書いた項と同じように、人を特定できる書き方にします。「長男に」とだけ書いてある遺言書では、同姓のご親族が複数いる場合に、どなたを指すのかで話が止まります。氏名と生年月日を添えておけば済みます。
遺言書にも生前の指定もなく、地域や家の慣習もはっきりしないときは、家庭裁判所で話し合う方法があります。相続人のあいだで決められないときは、遺産分割とは別に祭祀承継者の指定を申し立てます。
同じQ&Aも、「慣習が明らかでなく相続人間でも決められないので家庭裁判所の調停で話し合いたいという場合には,別に祭祀承継者指定の申立てが必要です。」と述べています。遺産分割の調停を申し立てても、その中でお墓の承継者まで決まるわけではありません。
名古屋家庭裁判所の「申立添付書類等一覧表」には、「祭祀に関する権利の承継者の指定」という事件名で管轄と添付書類がまとめられています。調停の申立先は「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所 又は 当事者が合意で定める家庭裁判所(法245Ⅰ)」、審判の申立先は「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所(法190Ⅰ)又は 当事者が合意で定める家庭裁判所(法66Ⅰ)」です。
添付書類は、申立人と相手方の戸籍謄本、「③被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本(全部事項証明書)」、相続人全員の戸籍謄本に加えて、「⑥祭祀財産の目録」と「⑦財産に関する証明書(不動産登記事項証明書,墓地の使用権の証明書等)」です。お墓の使用権を証明する書類まで求められる点が、ほかの申立てと違います。収入印紙は「申立書ごとに1200円」とされており、1,200円分を申立書に貼ります。郵便料は裁判所ごとに異なりますので、申立先でご確認ください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てができるとき | 慣習がはっきりせず相続人間で決められないとき |
| 調停の申立先 | 相手方の住所地か合意で定める家庭裁判所 |
| 審判の申立先 | 相続が開始した地か合意で定める家庭裁判所 |
| 収入印紙 | 申立書ごとに1,200円 |
| 主な添付書類 | 相続人全員の戸籍謄本と祭祀財産の目録 |
表1 祭祀承継者の指定の申立てについてまとめたものです。名古屋家庭裁判所「申立添付書類等一覧表」をもとに作成しました(2026年10月19日確認)。郵便料は申立先でご確認ください。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
名古屋市東区のご相談で、こんなことがありました。財産の分け方はご自筆の遺言書に細かく書かれていたのに、お墓のことだけ一文もなく、ご相続人のきょうだい三人が顔を見合わせることになりました。どなたも引き受けたくないのではなく、お父さまのお考えが分からないために決め手がなかったのです。結局ご長男が引き継ぐことで落ち着きましたが、ひと月近くかかりました。遺言書にこの一文があれば、要らなかった時間です。※事例は個人情報保護のため一部を改めています。
名古屋市の霊園や市内の墓地では、使用者が亡くなったときに墓地名義変更の申請が必要になります。引き継げるのは、使用者の親族か、家庭裁判所で祭祀を主宰する者と定められた方です。
名古屋市の「その他の墓地 各種オンライン申請」は、「墓地使用者(名義人)が、死亡その他の事由によって墓地の使用・管理が出来なくなった場合に、墓地名義変更(承継)の申請が必要です。」と案内しています。八事霊園と愛宕霊園にも同じ案内があり、管理事務所への連絡のほか、オンラインでも申請できます。
誰が引き継げるのかは、名古屋市の「八事霊園・愛宕霊園 よくある質問」が、原則として「墓地使用者(名義人)の親族の方」と「祭祀を主宰する者として家庭裁判所により定められた方」を挙げています。家庭裁判所の指定が市の窓口でそのまま効きますので、ご家族で決まらないまま申立てをした場合も、その結果が名義変更の根拠になります。
お子さんが引き継ぐ場合の書類として、同じ資料は「1. 墓地使用承継申請書」「2. 誓約書」を挙げ、名義人の死亡の記載がある戸籍や除籍の抄本、引き継ぐ方の戸籍抄本と住民票、印鑑登録証明書、それに「7. 墓地使用許可証(紛失した場合は不要)」を続けています。手数料は「届いたはがきと手数料1,100円を、管理事務所に郵送または持参してください。」とされ、郵送の場合は「郵送手続きの場合は現金書留封筒に届いたはがきと手数料1,100円と別途郵送料の350円分の切手を同封し、管理事務所に郵送してください。」という形です。続柄によって書類は変わりますので、管理事務所にお尋ねになるのが確かです。
生前に名義を移しておきたいというご相談もいただきます。同じ資料には、「墓地使用者(名義人)の健康状況や生活環境により、祭祀主宰者として墓地の適正な管理が出来ないと認められる状況であれば、墓地使用者(名義人)が存命の場合でも承継を認める場合があります。(生前承継)」とあります。どなたでも移せるわけではありませんので、ご事情を管理事務所に伝えてご相談ください。
祭祀承継者が決まったあとも、墓地の名義変更の申請や、遺骨を別のお墓へ移すときの改葬許可の申請が続きます。お墓や仏壇そのものには相続税がかからない扱いになっています。
遺骨を移す場合は、名古屋市の「改葬」によると、墓地、埋葬等に関する法律にもとづく改葬許可の手続きが要ります。申請者は「通常、現在遺骨が納められている墓地・納骨堂の使用者が申請者になります。」と案内されていますので、名義変更を先に済ませる順番です。申請先は墓地の所在区の保健センターの窓口で、郵送もできます。
お墓を移すお話は、ご実家を手放すときに出てきます。ご実家の相続登記とお墓の名義変更、改葬許可の三つが並ぶこともあり、名古屋の相続登記のご相談の中で一度に整理していきます。
付言事項は、遺言書の末尾に書き添える、財産の分け方とは別の文章です。お墓を継ぐ人への感謝や願いを書き添えておくと、指定された方がその役目を受け止めやすくなります。
同じ文例集は、この文例に付言事項を添えており、「一雄は、お盆やお彼岸、先祖の命日などには供養を怠らず、墓を守っていってください。」という一文を載せています。決まりを満たすための文ではありませんが、ご家族が遺言書を読んだときに、いちばん心に残る部分になることがあります。
書き方に決まりはありませんので、どうしてその方を選んだのか、どう続けてほしいのかを、ご自身の言葉で書いていただければ足ります。お盆やお彼岸にご家族が集まる習わしがあるなら、その場面を思いながら書くと筆が進みます。
お墓と仏壇の承継について、名古屋市東区の当事務所でよくいただくご質問を三つ挙げます。いずれもご相談の初めにお尋ねになることの多い点です。
遺言書で祭祀承継者を指定しても、名古屋市の墓地の名義変更の手続きが要らなくなるわけではありません。名古屋市の案内では、使用者が亡くなったときに墓地名義変更の申請が必要とされ、申請書と誓約書、戸籍などを管理事務所へ提出します。遺言書の指定は、どなたが申請するかを決める根拠になるものです。
お墓や仏壇などの祭祀財産は遺産分割の対象外ですので、継ぐことで法定相続分が増えるわけではありません。管理や法要にかかる費用をどうするかも、制度として決まっておらず、ご家族の話し合いで決める部分です。遺言書を書くときに、そのぶんを考えに入れて分け方を決めておく方もいらっしゃいます。
国税庁の案内では、日常の礼拝に使われている墓地や墓石、仏壇、仏具は相続税がかからない財産に挙げられています。ただし、骨とう的な価値があって投資の対象となるものは別の扱いです。税額の計算や個別の課税関係については、税理士か税務署にご確認ください。
お墓と仏壇を誰が継ぐかは、ご家族の事情によって進め方が変わります。これから遺言書を書く方と、すでに承継の場面に立つ方とで、次のように分かれます。
| ご状況 | 考えられる進め方 |
|---|---|
| これから遺言書を書く | 祭祀承継者を指定する一文を入れておきます |
| お墓を継ぐ人に願いを伝えたい | 付言事項で思いを書き添えておきます |
| 相続人以外の方に継がせたい | 氏名と生年月日まで書いて指定します |
| 名古屋市の墓地を引き継ぐ | 管理事務所に連絡して名義変更を申請します |
| 遺骨を別の墓地へ移したい | 改葬許可の申請から始めます |
| 誰が継ぐか家族で決まらない | 家庭裁判所の調停を申し立てる方法があります |
| 相続人のあいだで争いになりそう | 弁護士へのご相談が適している場合があります |
表2 本文で触れた進め方をまとめたものです。※一般的な例です。個別の事情により結論が異なります
年末年始にご家族がお集まりになる前に、遺言書へ祭祀承継者の一文を足しておくだけで、残されたご家族が顔を見合わせる時間はなくなります。名古屋の遺言書作成と相続のご相談を、お気軽にお寄せください。相続人のあいだで争いになりそうなご事情であれば、書く前に弁護士へご相談いただくほうが早いこともあります。
出典:岡山家庭裁判所「遺産分割手続Q&A」/名古屋家庭裁判所「申立添付書類等一覧表」/函館地方法務局「自筆証書遺言書の文例集(付言事項付き)」/国税庁「No.4108 相続税がかからない財産」/名古屋市「その他の墓地 各種オンライン申請」/名古屋市「八事霊園・愛宕霊園 よくある質問」/名古屋市「改葬」
この記事は 2026年10月19日 時点の情報です。制度や手数料は改正されることがありますので、最新の取扱いは家庭裁判所・市区町村の窓口等でご確認ください。
本記事は登記手続と書類作成の観点からの一般的な解説です。相続人のあいだで争いがある場合は弁護士へ、相続税・贈与税など税務は税理士へご相談ください。個別の事情によって結論は変わります。
監修:司法書士 市川貴史(愛知県司法書士会 登録番号 愛知第1239号)
司法書士法人白壁事務所(しらかべ) 代表社員。名古屋市東区白壁。司法書士歴20年以上。相続・遺言・家族信託・成年後見・不動産登記・商業登記を扱っています。
最終更新日:2026年10月19日
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